[特集]近代日本の女中(メイド)事情に関する資料一覧

はじめに

明治、大正、昭和の女中事情を扱った資料一覧(リスト)を公開します。明治以降のメイド事情についての調査を始めていましたが、個人的事情で忙しくなっているのと、この領域を専門で深めるつもりがないので、誰かが考察を深める・広げてくれることを願って、現状私が確認している入手可能な資料の一覧を掲載することにしました。

基本的には『<女中>イメージの家庭文化史』の参考文献から、原典の入手を行って作成しています。大学論文では、基本が尾高煌之助氏への言及が多く、そこから年代別に奥田暁子氏、濱名篤氏、牛島千尋氏と野本京子氏、そして『<女中>イメージの家庭文化史』著者・清水美知子氏の論文を押さえることになるかと。清水氏の上記著作が日本では最も整理されていますし、今後の研究成果を読みたいと思うところではあります。

奥田暁子氏の論文は女性史の文脈の中で英国とドイツに言及し、また日本文学内での女中を巡る考察への指摘も行われていますので、違った方面でも広げられそうな感じがしています。

大学生や大学関係者ではない人間には大学論文入手は手間ですが、国立国会図書館や大阪府立図書館ではコピーサービスを行っています。以下、論文に関してはすべてそうした手段で参照していますので、誰でもアクセス可能な情報です。所々、国会図書館の公開資料やGoogle Booksにもあるので、確認してみてください。

他の女性の職業と女中の相対的な位置づけについては、村上信彦氏の『明治女性史〈3〉女の職業』と『大正期の職業婦人』とが詳細に記されており、こちらも必読だと思います。戦前・戦後日本の行政によるアンケートや調査資料が豊富に存在しており、英国での実情を考える際の相対化する資料としても、当時の調査者の視点を知る意味でも、とても面白いです。

江戸時代や明治・大正・昭和の歴史も背景として抑える必要がありますが、そちらは今回の資料では取り上げていません。また、『<女中>イメージの家庭文化史』で参照している資料はここで取り上げたものよりも多いので、きっちりと行いたい方はまず、『<女中>イメージの家庭文化史』にアクセスした上で、自分に足りない情報を探すのが良いと思います。


2016/02/20追記。2012年2月に、『女中がいた昭和』が刊行されました。同書は『<女中>イメージの家庭文化史』を補完する内容として製作されており、ほぼこの2冊で、「女中」というジャンルが網羅できるだけの完成度となっています。

以下、敬称略です。


■女中を扱う著作・論文

小泉和子・編集(2012年)『女中がいた昭和』、河出書房新社
清水美知子(2004年)『<女中>イメージの家庭文化史』、世界思想社
牛島千尋(2001年)戦間期の東京における新中間層と「女中」:もう一つの郊外化、社会学評論 52(2)
奥田暁子(1995年)10 女中の歴史、『女と男の時空 近代女性史再考 Ⅴ 鬩ぎ合う女と男―近代』、藤原書店
尾高煌之助(1993年)X-A 余剰の捌け口:戦前期女中の経済分析序説(P.244-254)、『労働力の供給制約と需給調整の総体的メカニズム』、統計研究会労働市場研究委員会、雇用促進事業団
尾高煌之助(1989年)「二重構造」、『日本経済史 6 二重構造』、岩波書店
野本京子(2001年)家事労働をめぐる「主婦」と「女中」、『女の社会史』、山川出版社
濱名篤(1999年)Ⅳ都市と風俗「階層としての女中」、『近代日本文化論 5 都市文化』、岩波書店
荻山正浩(1999年)産業化の開始と家事使用人 : 大阪府泉南地方の一商家の事例を中心として、社會經濟史學 64(5)
村上信彦(1977年)『明治女性史〈2〉女権と家』、講談社
村上信彦(1977年)『明治女性史〈3〉女の職業』、講談社
村上信彦(1983年)『大正期の職業婦人』、ドメス出版


■当時のマニュアル

嘉悦孝子(1907年)『主婦と女中』、金港堂書籍株式会社
加藤常子述・主婦之友社編(1913年)「女中の使ひ方」、婦人之友社(南博編纂(1986年)『近代庶民生活誌9 恋愛・結婚・家庭』に掲載)
羽仁もと子(1912年)『女中訓』、婦人之友社


■行政の刊行資料

大阪市社会部労働課(1930年)『派出婦及附添婦に関する調査』
大阪市社会部労働課(1934年)『女中の需給状況について』
労働省婦人少年局(1960年)『海外における家事使用人』
労働省婦人少年局(1959年)『住込家事使用人の実情』
労働省婦人少年局(1961年)『通勤家事使用人の実情』


■住まい

久保加津代(2002年)『女性雑誌に住まいづくりを学ぶ 大正デモクラシー期を中心に』、ドメス出版
西川祐子(2004)『住まいと家族をめぐる物語 ―男の家、女の家、性別のない部屋』、集英社
日本生活学会(1999年)『生活学〈第23冊〉台所の100年』、ドメス出版
吉田桂二(2004)『間取り百年―生活の知恵に学ぶ』、彰国社


■小説・文学

奥野健男(1991)『ねえやが消えて―演劇的家庭論』、河出書房新社
谷崎潤一郎(1974)『台所太平記』、中央公論新社
古川裕佳(2011)『志賀直哉の家庭―女中・不良・主婦』、森話社
森鴎外『かのように』
由起しげ子(1966)『女中っ子』、偕成社


■女中経験者の自伝

賀川はる子(1996)『女中奉公と女工生活』、大空社
高井としを(1981)『わたしの「女工哀史」』、草土文化
吉村きよ(1996)『女中奉公ひと筋に生きて』、草思社


■華族・上流階級・お嬢様

秋山正美(1992)『少女たちの昭和史』、新潮社
内田静枝(編),弥生美術館(編)(2005)『女学生手帖―大正・昭和乙女らいふ (らんぷの本)』、河出書房新社
黒岩比佐子(2008)『明治のお嬢さま』、角川書店
小田部雄次(2008)『梨本宮伊都子妃の日記―皇族妃の見た明治・大正・昭和』、小学館
タキエ スギヤマ・リブラ+竹内 洋訳、井上 義和訳、海部 優子訳(2000年)『近代日本の上流階級―華族のエスノグラフィー』、世界思想社
酒井美意子(1995)『写真集 酒井美意子 華族の肖像』、清流出版
酒井美意子(1986)『ある華族の昭和史―上流社会の明暗を見た女の記録』、講談社
徳川元子(1983)『遠いうた―七十五年覚え書』、講談社
徳川幹子(1994)『絹の日土の日―ハイカラ姫一代記』、PHP研究所