運営者:久我真樹(Kuga Masaki)
はじめに
このサイトはイギリス・ヴィクトリア朝(1837~1901)から第二次世界大戦までを中心に、当時の屋敷やそこで働いた執事やメイドといった使用人の情報を整理・共有する目的で運営されています。
運営者の久我は2000年より英国の屋敷の暮らしに本格的に興味を持ち(元々、NHK『名探偵ポワロ』やTRPGを通じて興味はあった)、いろいろと調べました。当時刊行されていた和書『英国ヴィクトリア朝のキッチン』にて、使用人の種類の多さに驚き(たとえば「ハウスメイド」「キッチンメイド」「スカラリーメイド」など)、もっと知りたいと思いましたが、仕事の内容について詳細な資料が日本では刊行されていませんでした。
そこで自分で調べようと英書を買い、その世界に圧倒されました。イギリスでは使用人専門の研究が数多くなされており、情報が充実しています。使用人だった人たちの「手記」も数多く刊行されていたのです。使用人を知ることは、「貴族が屋敷でどんな暮らしをしていたのか?」を映し出す鏡のようなものですが、使用人そのものの生き方や実態は、多くの魅力にあふれていました。
意外な「ヴィクトリア朝」イメージ
日本に伝わる「労働者階級」のイメージは、工場労働者をメインとしています。労働運動や組合の存在がやがては政治的な力となりましたが、当時を働いた女性最大の職種は女性使用人でした。大きな屋敷では厳しい規律もあるものの、同僚がいて、異性がいて、楽しい時間も存在しました。
・みんなでお金を集めてお酒を買って、徹夜でダンスパーティー
・領地から人を集めて、屋敷の使用人も参加した吹奏楽団
・自転車で遠出する
・中流階級の家庭よりも、時に恵まれた食事
使用人は働いて、生きて、楽しみも見つけていました。その多くは必ずしも屋敷の使用人のように恵まれた待遇ではありませんでしたし、その職にあったことを後悔する人もいましたが、屋敷の使用人職は「絶対に働けない」遠い職場ではなく、キャリアを重ねていくことで働ける職場にもなりました。
「働く」共通点
使用人たちは驚くほど転職を繰り返して、職場を変えました。彼らは奴隷ではなく、主体的に自分の人生を、キャリアを形成することもできました。執事は世襲ではありませんし、メイドも職場が気に入らなければ、辞めてしまいます。ある手記を書いたメイドは、13歳から17年間の使用人経験で、12箇所の職場を経験しました。
・現代のような転職市場(求人広告・人材バンクの前身の存在)
・執事になるためのキャリア形成(2年間を目処に、職場を変えていく)
・人材マネジメントの観点(大勢の使用人が働く屋敷では部下を束ねる能力が必要)
このように使用人職は雇用の流動性が極めて高く、また努力次第・戦略次第で高い給与を得られる仕事の在り方は極めて現代的で、これが100年以上前の時代なのかと、驚きもしました。その驚きが自分を動かす力にもなりました。
自分にとって、イギリスに存在した使用人たちは「社会で働いた先輩」でもあり、「同僚」ともいえる存在です。
多くのコンテンツを紹介する
イギリス文学は日本でも多く読まれ、数多く映像化もされています。映像の舞台となる屋敷は今もイギリス各地に数多く残っています。その世界を支え、当たり前に登場する使用人たちを知ることで、別の視点で作品を楽しんでいただければと思っています。
まずは映像や参考資料の紹介を軸に、使用人の世界と、彼らが生きていたイギリスがどんな場所だったのかを、共有して行きたいと思います。同時に、これからこの分野を研究される方にとって「航海図」となるように、実用的な内容に仕上げていきます。
専門書の洪水を体験した身として
ヴィクトリア朝はイギリスが大英帝国として最も栄えた時代、繁栄を享受した時間としても知られていますし、当時の暮らしについても様々な研究がなされていますが、専門的な書籍が多く、値段も高く、どこから始めていいのかも分かりにくい、と私は感じています。
そこで、使用人の研究を通じて得た体験から、資料のレベル感やどこに何の情報があるのかを整理し、研究や好奇心を充たす手段として、当サイトに情報を集約することにしました。ヴィクトリア朝を中心としますが、使用人やイギリスの屋敷や、そこに関わる事象をご紹介していくつもりです。
おわりに
以上、駆け足ではありますが、ヴィクトリア朝や屋敷に興味がある方にとって、役立つ情報を提供し続けていければ、幸いです。