日本のメイドカルチャー史(著者による紹介)

『日本のメイドカルチャー史』(久我真樹、星海社、2017年)は、1990年代から2010年代にかけて、日本で生じた「メイドブーム」を5つの期間に分けて解説する本(上下巻)です。大きく言えば、「二次元のメイド」(漫画、小説、アニメ、ゲームなど)と、「三次元のメイド」(コスプレ、メイド喫茶、それ以前のかわいい制服を着た店員)を対象としたイメージが、相互に影響・混ざり合いながら、爆発的にイメージの流通を生み出していく歴史を、膨大な資料に基づき、描き出します。

※武内崇様のイラストは、帯のみです。

このページの見出し

・概要:著者による本の紹介
『日本のメイドカルチャー史』「はじめに」全文
『日本のメイドカルチャー史』参考資料一覧上巻:第1-4章公開(下巻5-7章は準備中)
『日本のメイドカルチャー史』補完(誤字・脱字・誤認など)
・本の購入(外部リンク)
・上巻目次
・下巻目次

概要

「メイドブーム」の基点を1993年、または1997年とした場合、20年以上の歳月が過ぎています。何かしらアーカイブをする必要があると、私は考えました。

「メイドブーム」と言っても、語り手によってその意味合いが違います。ゲーム『殻の中の小鳥』を中心とした1990年代のトレンドを挙げる人もいれば、『まほろまてぃっく』がメイドブームを引き起こしたと言う方もいますし、「メイド喫茶」がメディアを席巻した状況をメイドブームとする方もいます。

英国メイド研究者の私は「メイドブーム」の最中も英国メイド研究に明け暮れて、他のブームにはあまり目を向けていませんでした。「メイド=英国メイド」という発想なので、「様々なメイドブームは英国メイドの影響力が源流」と思っていました。しかし、現実はそんな単純なものではなく、「英国メイド」がメジャーになったことはわずかな例外の作品を除いてありません。同じ「メイド服」でも、それぞれのルーツや構成要素は違うのです。

その現実認識が、私のスタート地点とも言えます。

このメイドイメージの混在を整理するために、「5つの軸」で考察を行っています。「メイドイメージの流通」は漫画・小説・アニメ・ゲームに加えて、コスプレやメイド喫茶については書籍、雑誌や新聞記事、ネットの記事などに記録された情報をベースにしました。ここから、ある時期に顕著になったブームの傾向や、作品数、記事本数のトレンドを見ることで、「ブーム」を代表する事象やそのピークの把握を行いました。

この「5つのメイドブームの区切り」は著者となる私・久我真樹の「史観」です。他の人が同じ情報に接すれば、別の見方が生じることもあるでしょう。また、『日本のメイドカルチャー全史』とのタイトルではない理由は、様々な重なる領域が多すぎるため、個人ではすべてを書けるような事象ではなくなっているからです。

しかし、「全史」にできないからといって、刊行しない理由にはなりません。まず、網羅的な「メイドブーム」に関する通史が存在しない状況を本書を通じてある程度まで解消し、その後、本書で言及出来ていない箇所、あるいは異なる観点での考察を、メイドブームを体験した方たちや重なる領域の専門家の知見を借りながら解消していき、「全史」を目指して行くことが、本書刊行の目的となります。

長々と書きましたが、「メイドが好きだから、知りたいという気持ち」を満たすために作りました。「こんな作品にも、メイドがいたんだ」という発見や、「このメイドブームは体験した」と思い出すきっかけになれることが、読者の皆様にお届け出来れば幸いです。


本の購入(外部リンク)

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日本のメイドカルチャー史 上卷/下巻

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上巻概要

第1章ではメイドブームの「手前にある風景」(前景)として、まず『世界名作劇場』シリーズと1970年代を代表する「少女漫画」を軸に、様々な作品で「背景として描かれていたメイド」を紹介します。

第2章では「第1期メイドブーム」として、「背景だったメイド」が1990年代から次第に表舞台に立ち、ヒロイン化が進んだ成人向けゲームを中心に考察します。メインキャラクターとかしていくメイドは、やがて「屋敷」という設定からも解放され、かつ「コスプレ化」も進みつつ、奉仕・献身へと純化した「日本のメイドさん」へと進化を遂げた過程を解説します。

第3章では「第2期メイドブーム」として、「アンナミラーズ」を代表とする制服ブームの中でのメイド服イメージの広がりと、同年代の「コスプレブーム」と融合していく第1期メイドブームのトレンドを伝えます。大正時代からのカフェ文化や、コスプレブームと融合する中で「メイド喫茶」へと通じていく源流が垣間見えます。

第4章では「第3期メイドブーム」として、「日本のメイドさん」と呼ぶべき、「メイドが主役となる作品」群を取り上げ、「戦闘メイド」「メイドロボ」といった属性から、少年漫画・青年漫画・少女漫画・アニメまで幅広いジャンルへ登場機会を増して増殖する「メイドコンテンツ」を紹介します。また、意外な作品にメイドが登場していることにも、気づくことになるでしょう。

第2章から第4章までを含めて、私の活動のベースが「同人」であることから、こうした考察では見落とされやすい「同人」から見たメイドブームについても考察を行っています。

上巻目次

第1章 メイドブームの前景 1970年代から 『世界名作劇場』と少女漫画にいたメイド

■Ⅰ 幼い頃のメイドとの出会い 14

■Ⅱ 児童文学と『世界名作劇場』シリーズ 16
1 児童文学とメイド 16
2 アニメ『世界名作劇場』シリーズとメイド 18
3 まとめ 24

■Ⅲ 少女漫画とメイドの接点 24
1 『ベルサイユのばら』/フランス 25
2 『キャンディ・キャンディ』/アメリカ・英国 28
3 『風と木の詩』/フランス 29
4 『ポーの一族』/ヨーロッパ諸国 32
5 『はいからさんが通る』/日本 35
6 『この娘に愛のおめぐみを』/英国 37
7 メイド・屋敷の原点の少女漫画? 『ガラスの城』/英国 38
8 『デザイナー』/日本 40
9 使用人が表舞台に立った『バジル氏の優雅な生活』/英国 41

■終わりに 48

第2章 第1期メイドブーム 1990年代 「メイドさん」の再発見と「屋敷」からの解放

■Ⅰ メイドが表舞台に出てきた1990年代 52

■Ⅱ 【守】館のメイド 53
1 昭和日本のポルノ・SMからの派生 53
2 1993年からの「館」のメイド 58

■Ⅲ 【破】『殻の中の小鳥』に見る服飾化と概念化の進展 64
1 『殻の中の小鳥』に見る隷属的地位 64
2 フレンチメイド・スタイルによる「服飾化」 66
3 「館に仕えるメイド」文脈からの離脱 68
4 メイドの日常化 71

■Ⅳ 【破から離へ】「メイドさん」への道筋・1997年 73
1 制服ジャンルとの融合と「かわいい」化 73
2 日常生活とメイドロボ:『ToHeart』(1997年) 74
3 非エロ化:『デスクトップのメイドさん』(1997年) 76

■Ⅴ 【離】「日本のメイドさん」確立へ 79
1 家事スキルの育成・資格化・プロフェッショナル化 80
2 忠義・献身・自発性 85
3 「メイド」を描くクリエイターと主人との存在 89

■Ⅵ ゲーム軸のメイドブーム 94
1 数字から見るメイド作品の増加 94
2 アダルトゲームの普及を支えた要因 95
3 家庭用ゲームに登場した「同年代」のメイドたちの補足 102

■終わりに 105

第3章 第2期メイドブーム 1990年代 制服・コスプレブームの中のメイド服

■Ⅰ 実在する職業服を『ベースにしたメイドブーム 108
1 メイドブームとの融合 108
2 錯綜するメイドイメージの整理 109

■Ⅱ 「制服」ブームの中のメイドさん 110
1 1980年代からの広義の制服ブーム(女子高生・学生服) 111
2 1990年代前半からの制服ブーム(アンナミラーズ・ファミレス) 113
3 アンナミラーズとファミレスの時代 117
4 広く顕在化していく制服ブーム 119
5 考現学から見る女性の職業服の系譜とレストラン・カフェ文化 123

■Ⅲ 制服ブーム 134
1 学生服 134
2 看護婦 136
3 バニーガール 139

■Ⅳ メイド(服)ブームまでの道のり 141
1 『V.G. ヴァリアブル・ジオ』 142
2 『Piaキャロットへようこそ!!2』とメイド服デザイン 144
3 『Piaキャロットへようこそ!!2』が象徴するメイド服イメージ 146

■Ⅴ 同人・コスプレが育んだメイドブーム 148
1 コスプレが増加し、美少女ゲームにも対象が広がった1990年代 148
2 メイド同人イベント・メイドコスプレに影響を与えた『殻の中の小鳥』 154
3 制服ブームから独立していくメイドブーム 159
4 「メイド服的デザインの喫茶」と、それを観測する同人誌の誕生 161
5 メイド服デザインのお店と紅茶ブーム 165

■Ⅵ 『Piaキャロットへようこそ!!2』からメイド喫茶へ 169
1 メイド喫茶の前風景 169
2 コスプレブームの中の「コスパ」とメイド喫茶 170
3 「メイド」コンテクストから抜け出たデ・ジ・キャラット 173
4 メイド喫茶とメイド同人イベントの接点 175

■コラム メイドイラストとインターネット 178

■終わりに 184
1 「制服ブーム」内のウェイトレスジャンルの時代 184
2 メイド服の自立・コスプレ化のまなざし 185

第4章 第3期メイドブーム 2000年代前半 「日本のメイドさん」の確立

■Ⅰ メイドが主役の時代へ 190
1 戦うメイドとメイドのいる暮らし 190
[著者補足:原文では目次に含まれず]
・『鋼鉄天使くるみ』
・『サライ』
・『戦うメイドさん!』
・『まほろまてぃっく』
・『花右京メイド隊』
・『BLACK LAGOON』
・『シャドウプリム』
・アニメ『ナースウィッチ小麦ちゃん マジカルて』
・アニメ『超重神グラヴィオン』
・『まぶらほ〜メイドの巻〜』
2.「攻めるためのメイド」
3.「戦闘美少女」には入らなかったメイドキャラクター
4. 戦闘メイドの原型としての『ファイブスター物語』

■Ⅱ 戦わないアンドロイドとしてのメイド 215
1 『ToHeart』家電のようなアンドロイドと萌えの一致 215
2 アニメ『HAND MAID メイ』人と境目のないメイドロイド 216
3 『集積回路のヒマワリ』普及した家電のようなアンドロイドのメイド 217
4 『こはるびより』アンドロイドのメイドを巡る「萌え」に特化した作品 219

■Ⅲ 日常生活のメイドさん 223
1 『ぼくのメイドさん』アパート一人暮らしに幽霊メイド 223
2 アニメ『菜々子解体診書』戦いに「巻き込まれる」メイド 225
3 漫画『メイドさんは女王様』少年の主人に萌えるメイド 226
4 『るくるく』メイドの格好をした悪魔が居候 227
5 『藍より青し』寮生活+アルバイトでメイド 229
6 『スーパーメイドちるみさん』メイドさんがいる特別ではない暮らし 231
7 『これが私の御主人様』「かわいいメイド服」の極致 232
8 『ハヤテのごとく!』メイドがいる日常・戦う主役は「執事」 235

■Ⅳ 1990年代からの少女漫画とメイド 238
1 『ハッピー・トーク』 238
2 『チム・チム・チェリー!』 239
3 『裸足のアイツ』借金で主人公がメイドになる学園モノの先駆け 240
4 『花になれっ!』大本命のメイド作品 241
5 執事ブームの前風景の中でのメイド 243
6 『知らない国の物語』姫さまがメイドになる 244
7 ヴィクトリア朝を中心的に描くもとなおこ氏の作品 245
8 「うるわしの英国シリーズ」館と貴族と使用人たち バジル氏の系譜 248
9 『ご主人様に甘いりんごのお菓子』正統派の階級を超える恋愛 249
10 『螺子とランタン』幼い女侯爵と彼女の家庭教師の青年 251
11 『Under the Rose』家事使用人「も」主役の作品 253

■Ⅴ かわいい「メイド服デザイン」の衣装 257
1 『デリシャス!』メイド服的エプロンイメージのオンパレード 257
2 『東京ミュウミュウ』メイドがいるカフェと「ご奉仕」 258
3 アニメ『ココロ図書館』メイド服を着た図書館員 260
4 『一騎当千』メイド服を着たメインキャラクター 261
5 アニメ『おとぎストーリー 天使のしっぽ』『天使のしっぽChu!』 263

■Ⅵ 特異点を示すメイド作品 264
1 漫画家・介錯氏の作品 264
2 TYPE-MOON作品とその派生作品 267
3 CLAMP フリルの完成系・『カードキャプターさくら』から、『ちょびっツ』まで 271
4 八神ひろき氏の『G-taste』 第1期・第2期メイドブームの象徴的作品 276

■Ⅶ 英国メイドの確立 279
1 『エマ』メイド服に身を包んだ家事使用人たる英国メイドが主役 279
2 ルーツとしての同人活動と『シャーリー』 281
3 「メイド服」の店員がいるお店へのこだわり 284
4 ライフワークとして進化した『シャーリー』 284
5 主従関係と萌えの融合 285
6 英国メイドの探求の時代 286
7 アニメ化が進んだメイド作品 289

■コラム 著名な作家の作品とメイド 292

■終わりに 297

参考資料一覧 302


下巻目次

第5章 第4期メイドブーム 2000年代 メイド喫茶の時代

■Ⅰ 喫茶店発・新しい「メイドさん」の発明 8

■Ⅱ コスプレ店員からメイド喫茶へ 9
1 1990年代のコスプレ店員から、店員のアイドル化まで 9
2 「コスプレ喫茶」から「メイド喫茶」へ 19
3 「アイドル」と「秋葉原」と「メイド喫茶」 27
4 メイド喫茶ブーム前夜 32

■Ⅲ 「萌え」と「秋葉原」 36
1 「オタクの聖地」秋葉原のコンテンツへ 36
2 2005年からの変化『電車男』 44

■Ⅳ 全国展開するメイド喫茶 52
1 メイド喫茶と新聞報道 52
2 特異点としての「名古屋の大須」を支えた「M’s Melody」 62
3 特異点としての「大阪・日本橋」 70

■Ⅴ 「メイド喫茶のメイドさん」の確立 74
1 テーマパーク型メイドの完成 74
2 「@ほぉ〜むカフェ」によるメイドの「再定義」 79
3 オタク依存からの離脱 90
4 喫茶業からの離脱 97

■Ⅵ 「メイド」のアイドル・グラビア化 106
1 メイド店員の写真の増加 107
2 メイドコスプレの進展 111
コラム メイド喫茶ガイド本の変遷 120

■Ⅶ 語り手から見るメイド喫茶イメージ 129
1 客層の広がり 129
2 メイドを見る眼差し・妄想の対象としてのメイドに萌えるオタク 132
3 メイド店員・女の子への欲求(三次元) 138
4 精神的な充足・癒しの場 151
終わりに 156

第6章 第5期メイドブーム 2006年以降 メイドイメージの多様化と進化

■Ⅰ 2006年・メイド喫茶作品勃興とメイド作品の進化 164
1 メイド喫茶を舞台とした漫画ブームの先駆けたる2006年 164
2 メイドの進化系 171
3 英国メイドの変遷 176

■Ⅱ メイド作品の隆盛 181
1 メイド喫茶作品の系譜 181
2 女性向けコンテンツでのメイド作品の隆盛 183
3 ファンタジー作品でメイドが主役・レギュラーキャラへ 211
4 男性がメイドになるBLと、男の娘メイドの道筋 231
5 人外メイドの系譜『鶴の恩返し』から萌え化まで 247
6 ホテルメイド 255
7 女中・女給 258

■Ⅲ メイド作品外への進出 262
1 学園モノへの進出 262

■Ⅳ テレビ・芸能界におけるメイド 280
1 メイドコスプレのドラマへの登場 280
2 テレビコマーシャル(CM)とメイド 288
3 広義のアートとしてのメイドの広がり 291


Ⅴ 「家政婦」から見るもうひとつのメイドブーム 296

■終わりに 315

第7章 ブームから日常へ 日本のメイドカルチャー

■Ⅰ 日常化するメイド 320
1 地域イベントでのコスプレと、メイド服の流通 320
2 地域イベントでのメイド喫茶 322
3 日常化の立役者・メイド服はどこから? 326

■Ⅱ アイコン化・アイドル化していくメイド 330
1 アイコンへの道筋 331
2 特産品の販促活動と観光大使 333
3 海外の日本文化紹介イベントでのメイド喫茶 338
4 アイドル化への道筋 339

■Ⅲ 世界展開とカワイイ化 345

■Ⅳ ロリータファッションとメイドブームの接点 355
1 ロリータの系譜 356
2 ゴシックロリータ 361
3 「お茶会」との親和性 379
4 「戦闘服」としてのロリータファッション 384

■Ⅴ メイドに興味を持つ「接点」の系譜 387
1 『世界名作劇場』シリーズと少女文化 389
2 海外ドラマとメイド 405
3 メイドイメージの文脈で見る高橋留美子氏の作品 418
4 国民的アニメ監督・宮崎駿氏と『スタジオジブリ』の系譜 426

■Ⅵ メイドブームは終わり、日常へ 437
1 数字で見る「ブーム」と「定着」 437
2 メジャー作品への進出 442
3 エロとメイド 448
4 ゲームとインターネット 455
5 日常化への道筋 460
終わりに