ヴィクトリア朝を舞台に、金塊を盗み出した実在の強盗犯たちを映画化したものです。ショーン・コネリー主演です。映画の描写は基本的に下層社会が中心で、スラムも登場させていました。黄色のスモッグ、荒れた路面、座り込んだ人たち、物陰から襲ってくる浮浪者、割れた窓ガラス。他にも貴婦人から物を盗む描写など、かなり「当時あった風景」を再現しています。
金庫の鍵を集める筋立ては、人の家に潜入して、物音を立てずに地下にある鍵から型を取る、或いは見まわりがいなくなった隙に、同じく金庫を開けて鍵の型を取るなど、『ルパン三世』のようで面白かったです。
この他の見所としては、ヘンリー・メイヒューの著作で記された、「ねずみ狩り」です。「ねずみ狩り」とは四角い凹んだ「場」に、数十匹のねずみを放して、そこに1頭の犬をいれて、犬が一定時間に何匹ねずみをかみ殺すかを競う賭け事です。
ほぼ必ず引用される有名な文章を再現した場の雰囲気、この映像を見ただけで、何が行われていたかを理解できてしまいます。この映画は雰囲気の面ではヴィクトリア時代の「犯罪」や「暗部」を、社会的な意義付けではなく、活劇としています。
しかし、この話、エンディング部分は別として、実話だそうです。当時の犯罪について学術的に事細かく語る珍しい本『ヴィクトリア朝の下層社会』(高科書店:ケロウ・チェズニー:P.192-195)には、当時の金塊強盗事件について大まかな筋立てが掲載されています。犯人たちは強奪事件を成功させたものの、その後、おのおの捕まりました。様々な映画内の描写は、多分、この本を参考にしているのではないかと思います。(『ヴィクトリア朝の下層社会』原書は1970年刊行)
また原作はハヤカワから出版されていたようですので(『ジュラシック・パーク』のマイクル ・クライトン)、関心のある方はどうぞ。