19世紀のヴィクトリア朝を代表するジャーナリストのヘンリー・メイヒュー(http://en.wikipedia.org/wiki/Henry_Mayhew)によるロンドンの下町を散策した記録です。貧民街に近い世界を歩き、彼はそこで多くの「働く人々」と出会い、記録しました。その点では、この本はヴィクトリア朝の「貧しい人々の職業」を描き、その顧客となる労働者階級の人々がどんな物を食べ、どんな文化に接していたのかを描きだす鏡かもしれません。
オレンジ売りや花売りや物語を売る人や、古着売り、本当に様々な人々が猥雑に生きる世界を描写してくれますが、基本的にあるがままを猥雑に伝えるので、なかなか読みにくいです。また、現実の光景はある程度似てくることから、売り子の呼び声が中身こそ違えど大体同じで、そういう意味での配慮はされていません。
この本は『ヴィクトリア朝の下層社会』ほどアンダーグラウンドよりではありませんが、それでも紙一重、通りのひとつ向こう側や、そこで売られているもの(たとえば古着売りが扱う古着は盗品が混ざっている)などから、いろいろと感じられるものがあります。
とはいえ、メイヒューの筆は好奇心をそそるものが多く、雑踏の商人たちは安い投資で商売を始められるものとして、結構、食べ物を扱っています。店を持たずに、それこそ球場にいるバイトの販売員のように街中を歩く、呼び売り商人という職業がありました。彼らが扱う食べ物は多種多様で、縁日みたいです。
素材の中身はさておき、美味しそうな「ファストフード」のメニューが目白押しです。
「ハムサンド売り」
「屋台のコーヒー売り」
「路上のパイ売り」
「路上のプディング売り」
「エンドウ豆のスープおよび熱いウナギを売る商人」
「羊の足を売る女性」
「焼きジャガを売る街頭商人」
「プラム入り『プディング』あるいはゆで団子」
彼らの多くは明日を知れない立場でもあり、メイヒューはその職業を描写するだけではなく、彼らの生い立ちの話を聞いたり、仕入れの方法や利益を聞き出したり、ジャーナリストらしい好奇心で、当時のロンドンを描き出しています。