本書の構成は「文学好きな人向けのガイド」(for reader)『19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう』に類似していますが、文学ではなく、社会や歴史を資料から示す作りをしており、内容がその分、幅広くなっています。
また、『19世紀~』がテキスト主体に対して、もう少し分かりやすく図や資料を用いていて、読みやすくなっています。元々の原書の原題が『Writers Guide』、つまり物を書く人のための参考文献として作られており、「広く浅く」という感じになっています。あるカテゴリーを扱っていても、欲しい情報や視点のバランスが取れていない箇所も散見します。
しかし、一般的なレベルで欲しい情報や知らない情報は非常に多く、他の資料には出ていない本当に細かいこと(たとえば通貨・紙幣の種類や発行年度の話や、当時の喪服の着用規定・マナー)が掲載されているので、参考になるところは参考になります。
筆者の方の誠意として、章ごとに補足資料の紹介がされていますので、本書の情報で物足りなかった場合には、自分で深めることもできます。また、これ一冊で足りるというものではなく、複数の本で補う際に、相互に補い合う効果を期待できます。具体的なレシピや、葬儀の話、『ミセス・ビートンのレシピ』など、題材が多いので読む分にも辞書として使うにも、それほど不便はしない内容です。