『ラークライズ』と双璧を成す、と思うのが、この『農場にくらして』です。こちらも自伝的な小説で、少女時代を過ごした実家の農場での生活を描いています。農場主の娘としての視点が新鮮で、この世界を実際に生き、体験しなければ語れないような自然描写で満ちあふれています。
全体に大きなストーリーがあるわけではなく、淡々と短いエピソードが連なっていますが、『ラークライズ』が村にあった出来事を「大人の視点」で描くのに対して、こちらは「その当時の少女の視界に入る世界」を軸に構成されている印象です。素朴で、大変で、それでもイメージしたくなるような色彩であふれています。
私が個人的に好きなのは、通学の大変さです。学校から遥か離れた農家に住んでいるので、通学までの距離は長く、ある種、冒険のようなものです。また、思い切って友人をたくさん家に招いたら親が困っていた、というエピソードも、その当時ならではのなんとも言えない味わいがありました。明かりもなく、不便な時代ですから、様々なことが「事件」になりえました。
使用人関連で参考になりそうな視点もあります。酪農の仕事を行っている点でデイリーメイドと接点があり、また地主が猟を行う際の食事をする場としてその地域の農家の住まいを借りる習慣も描かれていたと記憶しています。
いずれにせよ、『農場にくらして』も『ラークライズ』も、田園風景をノスタルジックに語るだけではなく、そこで暮らす大変さも織り込まれているので、子供が読んでも大人が読んでも楽しめる作品だと思います。