はじめに
『リヴァトン館』で19~20世紀・英国の雰囲気あふれる作品が描かれたケイト・モートン『忘れられた花園』が発売されたので、この界隈の19~20世紀英国小説作品を集めてみました。あまりメイド軸ではないので、今回は英国屋敷・庭園としました。
朝日新聞書評・忘れられた花園(上・下)や、WEB本の雑誌でも書評が出て、非常に注目されていますね。
書店フェアのご参考になれば幸いです。
個人的にはケイト・モートンの作品は英語圏で流行している家系図作り・先祖調査の要素を盛り込んでいるので現代人にも読みやすい視点を持ち、今後、映像化されていくのではないかと予想しています。今回、舞台の一つとして彼女のいるオーストラリアを扱っているのも興味深いところです。
あと、2011/03/27に気づきましたが、NHK-BSで放送されているドラマ『大聖堂』の著者ケン・フォレットの作品『巨人たちの落日』が、英国貴族やメイドが出る作品だと知りました。こちらも同様の系譜なので、展開が広げられるのではないでしょうか。
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ケイト・モートン
『忘れられた花園』は『リヴァトン館』の作者ケイト・モートンの作品です。彼女はクラシックな雰囲気の英国作品を好んでおり、そのテイストで満ち溢れた作品を書いています。前作同様、物語は時間軸が入れ子の構造をして、話が並行して進み、すべての謎が解き明かされるようになっています。感想は後日。
『リヴァトン館』の感想はこちらです。高齢となった元メイドの視点で、過去に仕えた屋敷リヴァトン館で生じた悲劇を追憶するという作品です。屋敷マニア、使用人マニアにとって十分すぎるほど魅力が詰まっています。
雰囲気:帯に書かれていた作品
『嵐が丘』はエミリー・ブロンテの作品です。個人的に情感がすごすぎて(ドラマチックすぎる劇画のイメージ)、以前読んだときは入り込めませんでしたが、副読本や彼女の置かれた社会背景を知ると楽しめると思います。
著者/訳者:河野 多恵子 小野寺 健 植松 みどり 杉村 藍 中岡 洋 高山 宏 芦沢 久江
出版社:河出書房新社( 1996-04 )
単行本 ( 127 ページ )
『レベッカ』はヒッチコックが映画化したことでも有名な作品です。後妻として屋敷に入った女性が使用人との関係に悩み、追い詰められていくサスペンスです。
『秘密の花園』はいわずと知れたバーネットの名作です。今回は「花園」繋がりであり、また親を亡くした少女が屋敷に引き取られるという英国物の王道も『忘れられた花園』で踏襲されています。
サラ・ウォーターズ
『エアーズ家の没落』は2010年09月に刊行されたサラ・ウォーターズの最新作で、屋敷を舞台とした作品です。屋敷への執着度合いで言えば、『レベッカ』のような、とにかくひきずりこまれる作品です。
サラ・ウォーターズは英国でのヴィクトリア朝ブームを代表する作家のひとりでしょう。ミステリ色が強く、ケイト・モートンとはやや毛色違うと思いますが、『荊の城』は屋敷を舞台とした、メイドとお嬢様に光を当てた名作です。
時系列
幾つもの時間が並行して物語が進み、最終的にひとつに帰結していく作品群です。あまり屋敷でないのも混ざっていますが、クラシカルな雰囲気ということで。
『めぐりあう時間たち』は『ダロウェイ夫人』の著者ヴァージニア・ウルフ(1923年)を軸に、異なる時代の他2人の女性(1949年、現代)との繋がりを描いた作品で映画化も行われました。
『抱擁』はサラ・ウォーターズの前に、ヴィクトリア朝ブームの嚆矢ともされる作家バイアットの作品です。過去の作家たちの物語、現代で彼らが残した書簡を調べる研究者たち、そして過去の作家の作品とこちらも時系列が入り組みつつ、過去の物語が現代を動かしていきます。こちらも映像化されています。
『日の名残り』も現在を生きる執事が過去を追憶していく物語で、時間軸は2つ存在します。こちらも屋敷と貴族、そして映像化と要素が盛りだくさんですね。最近はカズオ・イシグロ作品『わたしを離さないで』映画化で話題となりました。
『小さいおうち』は2010年の直木賞作品で、戦前を女中として生きた女性の回想と、現代を生きる血縁の青年の視点で描いています。『リヴァトン館』と類似した構造で「手紙」がキーとなるのも似ていますが、雰囲気や話の流れは随分と違っています。個人的には2010年、最も「メイドらしいメイド」を描いた作品ではないかと思います。
同時代の作品・屋敷・庭園を描く資料
最後に、これら作品をより深く楽しめる資料本をご紹介します。
『図説 英国貴族の城館』は、「英国の屋敷」を把握する上で最も分かりやすく伝えてくれる資料本です。写真も解説も豊富です。庭園や使用人の職場についても触れています。
『図説 英国庭園物語』は、さながら『英国貴族の城館』の英国庭園版といった雰囲気で、庭園を構成する様々な要素を解説しています。
最後に、私の本です。『英国メイドの世界』は屋敷が使用人によってどのように運営されていたのか、どのような使用人が働いていたのかを詳細に解説する資料本です。