[参考資料]英国生活物語


ハードカバーで研究書でありながら2,000円を切るという、極めてコストパフォーマンスが良好な一冊です。タイトルからして『英国生活物語』と非常に広範な意味合いを持つもので、歴史書というよりも、当時を生きた人間がどのような価値観で、どのような環境に生きていたのか、というのを描き出しています。

個々の日生活よりもやや社会全体での文化の方が強い印象を受けます。正直な所、初めて読んだ時はその価値を理解できませんでしたが、階級としての中流階級や専門職など、少し興味を持って深く理解したい所があったときに、補強してくれるしっかりとした足場をしている本です。

本そのものが専門家向けに書かれているようなものではなく、初見でも読みやすいですが、広範なようで意外と深く突っ込んでいる所が多く、同時代のイギリス概要を理解した上で、つまりは他の本を読んだ上で、重ね合わせる形で読むと、随分と参考になるところが多い一冊です。何冊か読んでから、読むのが良いと思います。

個人的には中流階級の教育とその文化の独自性、あまり光が当たるところがない農場主と農民の生活様式など、「他を読んでから、気になったところ」を詳しく知るきっかけとなるものが多かったです。

あとがきではこの辺りの民衆の生活史は日本では数少ないとのことで、ヴィクトリア朝の入門書として読むと良いとの言葉にありますように、内容は網羅的で分かりやすいのですが、何か軸に興味があった方が読みやすいと思うので、完全にヴィクトリア朝知識ゼロの方ならば、他のもっと通史的な理解がしやすい本から入った方がいいと思います。

目次

第一章 ヴィクトリア朝の英国人
第二章 ジェントルマンとして生まれれば――その生活と職業
第三章 農場主と農民
第四章 都市の誕生――はるか故郷を離れて
第五章 ロンドン生活事情1――最底辺の人びと
第六章 ロンドン生活事情2――豊かな上層労働者階級
第七章 専門職と学校教育――医師、弁護士、機械技師
第八章 中産階級のイギリス
第九章 我々は史上最大の領土を有す――ひとつの時代の終わり

参考文献:○
索引:○