[映画/ドラマ/映像]Far From The Madding Crowd [1967]

19世紀イギリスの文豪トマス・ハーディ原作『狂乱の群れを離れて』を映画化したものです。農場主の女性バスシーバと、彼女を取り巻く人々の田園での生活を、恋愛を横軸にした作品です。土に根ざした農場の暮らしが目を引きます。

この話は、ヴィクトリア朝関連の資料本として役立つ『19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう』で何度も出てきており、以前から興味がありました。

話のメインとなるのはバスシーバ・エヴァディーンという女性です。彼女は地方の、いわゆる「ジェントルマン」農場主です。『19世紀~』によると2,000エーカーの土地を所有し、立派な屋敷を構えています。小作人を十数人も雇い入れ、穀物の栽培から羊や牛や豚も飼うなど、手広く営んでいます。

19世紀を題材とする映像作品は社交界やロンドン、或いは屋敷であることが多いですが、この作品は農場主が主役であることから、イギリスののどかな田園風景が中心になっていて、他とは違う味わいとなっています。(ハーディの作品はこの傾向がありますが)

中でも興味深い描写は、映像で初めて見た『モップ・フェア』です。使用人・メイドさんの歴史に興味を持つ方には有名な話ですが、ある時期まで、イギリスの農村部では、『モップ・フェア』と呼ばれる市が開かれていました。この市には、仕事を求める人々(主に農業労働者が参加:雇用主も農場経営者が多い)が集まり、彼らを雇用してくれる人々との「面接の場」となりました。

使用人はこのように、各自が自分の職業の目印を持ちました。これは使用人に限らず、「御者」(鞭)や「羊飼い」(先の曲がった杖)、それに小作人など、様々に仕事を求める人々が集まったのです。(細かい描写は『イギリスの田園生活誌』に出ています)

この物語のもうひとりの主人公、ゲイブリエル・オウクは羊飼いで、自給自足の暮らしをしていましたが、不幸な事故で羊が全滅し、『モップ・フェア』に仕事を探しにきました。しかし、この場での契約に至らず、馬車に揺られて移動する途中で火事に出くわし、そこで農場主バスシーバに出会います。

バスシーバは美しく裕福で、周囲の男性を魅了します。忠実で誠実なゲイブリエルだけではなく、近隣の農場主ボールドウッドも彼女に好意を寄せますが、彼女が選んだのは軽薄な伊達男、陸軍軍人トロイでした。

個人的な感想では、最初にゲイブリエルが求婚しに行ったファニー・ロビンという女性と、バスシーバ・エヴァディーンの顔の区別がつかず、混乱しました。ファニーも物語に深く関わり、『虚栄の市』(『高慢と偏見』のウィッカムも?)でも描かれた陸軍軍人という存在に左右される女性で、可哀想な役回りでした。

メロドラマ的な展開で物語は進んでいきますが、当時の農場主の生活する姿が、農場で働く人々の姿が素晴らしく、ヴィクトリア朝の田園の暮らしの魅力を雄弁に物語っています。

農場主ボールドウッドは新技術の取り入れに熱心で、蒸気機関式の脱穀機(『テス』にも登場)や、馬車の車輪を動力とする小麦の刈入機など、いろいろな道具も出てきます。

使用人も出てきます。バスシーバの忠実な補佐役の女性と、それに数人のメイドたち。さすがに都市でも邸宅でもないので、制服は着ていませんでしたが。

字幕無しで原作も未読なので、話の筋が良くわかっていませんでしたが、ファニーもバスシーバの家で働いていた使用人だった時期があったようです。二人暮しの母を残し、迎えに来た馬車に乗って、霧雨降る田園の小道に消えていくその姿は、かなり泣けます。

農村の庶民の暮らしを知りたい方には、とても参考になる映像だと思います。実写版『イギリスの田園生活誌』、ですね。

尚、記憶が正しければ、羊飼いゲイブリエル・オウクを演じたアラン・ベイツという俳優は、映画『ゴスフォード・パーク』で執事を演じた俳優だったはずです。こんなところでも繋がっていました。若い頃はハンサムだったんですね……

DVDそのものはパッケージが簡素過ぎたり、映像が途切れる、乱れたりとあまりいい品質ではありませんでした。AMAZONでも、「音が悪い」「画面比率を勝手に変えている」と酷評されています。もし購入するのならば、1998年版がいいのかもしれません。バスシーバだけが良くないキャスト、と書かれていますが。

関連作品

2015年に、『遥か群衆を離れて』のタイトルでリメイクされています。これはアマゾンプライムにありました。