日本語版が出ました!
AMAZONでレコメンドされて、購入しました。オスカー・ワイルドの作品と映像化された作品が好きなのですが、『ドリアン・グレイの肖像』は映像化されている『真面目が肝要』『理想の結婚』のような明るいヴィクトリア朝ではなく、退廃的で魂が堕落していくような作品だったので、映像でどう表現するか、気になりました。
結論からいえば、久しぶりに「退廃的なヴィクトリア朝」の作品でした。最初こそ青空の倫敦が広がり、美しい街並みがCG?で再現されていました。映像の設定ではドリアンは裕福な祖父を持っていたものの、母が祖父の意に反した結婚(貧しい芸術家と結婚)を行ったものの死亡し、孤児となったドリアンは祖父に引き取られ、その後、地方で音楽を学んでいた、というような感じでしょうか。ドリアンがロンドンにやってきて、祖父が残した屋敷を相続するところが、始まりです。
『ドリアン・グレイの肖像』は無垢だった青年が、出会った上流階級のHenryによって、様々なことを吹き込まれて堕落して、道徳的な心を失い、最後に破滅する話です。そのHenry役を演じたのが、あのコリン・ファースなのです。上記のWilde作品では『真面目が肝要』で良い役を演じ、明るい役しか見たことがなかったので、この役は衝撃でした。
原作小説では同時代を扱っていたことから細かい描写は存在しませんが、映像ではドリアンがどのように快楽に目覚め、駄目になっていくかが、ヴィクトリア朝に実在した光景(たとえばジンを飲む酒場ジンパレスや売春窟、ミュージックホール)から、上流階級の乱れ具合を交えて、ゴシック・暗い雰囲気のヴィクトリア朝好きな人には受け入れやすい作品に仕上がっています。
極端に残酷な描写がないので劇場版『フロム・ヘル』ほどの濃密さはありませんが、魂の堕落を扱っている分だけ、ドリアンが身を置く世界の色調・色彩の変化が映像的に、どんどん切り替わっていくのが、印象的です。最初は本当にドリアンを取り巻く世界は上品なんです。世界は青空が広がっているし、社交界も華やかな光に包まれています。しかし、彼が選んでいくのは退廃的で、快楽に溺れる日の当らない場所でした。
上京したてのドリアン・グレイはあまりにも純真で、ロンドンで目に触れる者の珍しさに驚き、荷物を運ぶポーターを見失うような、物乞いの子供にポケットから硬貨を盗まれてもきょとんとするような、透明感がありました。それが、Henryと出会い、堕落していく様子は、なんともいえません。
ドリアン・グレイを演じたBen Barnesは『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛』でカスピアン王子を演じた青年です。Wikiを見る限り、王子・貴族の役をそこそこやっていますね。今回は純朴で繊細な青年が、残酷な快楽主義者の二面を演じていて、ドリアンのイメージに合致しています。
ベン・バーンズ(wiki)
使用人は冒頭から出ています。執事は淡々と仕事を果たし、ハウスメイドボックスを持ったハウスメイドが登場するおまけつき。建物的に、ドリアンの住む屋敷は玄関ホールが吹き抜けになっていて、テラスハウスではなく、タウンハウスという設定のようです。その方が、確かに肖像画を飾る舞台設定としてはいいですね。セットだと思いますが、あれが実物で残っているなら、訪問したいレベルです。
映画のオリジナルとして映像時に分かりやすい過激な飛躍をしており、設定を好むかどうかで評価は分かれそうです。個人的には明るい世界が好きなので絶賛できないものの、この雰囲気のヴィクトリア朝が好きな人には気に入ると思います。ある意味、実際の放蕩貴族って、こんな感じだったでしょう。
原作が大好きな方は、アレンジの多さに戸惑うかもしれませんし、その意味では二次創作的かもしれません。俳優を生かす、という意味においても、この時代に映像を作る、という意味においても。
なお、同じオスカー・ワイルドの作品で、Henry卿を演じたコリン・ファースの主演作品では、『真面目が肝要』(『アーネスト式プロポーズ』)をオススメできます。キャスティング、屋敷、使用人、雰囲気が素敵で楽しめます。
関連リンク
・原作
・キャスティング
http://www.imdb.com/title/tt1235124/