[小説]小公女

子供時代に接した児童文学『小公女』をこの年齢になって読み直すと、「メイド」が主役の物語だったと気づきます。セーラが「メイド」として働かされているからです。

富裕な令嬢として「小公女」(Little Princess)と呼ばれたセーラ・クルーは寄宿学校のミンチン女子学院に入学し、クラスの中で目立つ存在となります。しかし、父の死と事業の失敗により学院から追い出されそうになります。

セーラは「お情け」で居残ることができましたが、その境遇は一変し、「メイド」として学院で働くことを余儀なくされます。この点で、『小公女』は主人たちの華やかな世界「階段の上」と、使用人たちの世界「階段の下」を、子供向けにアレンジして伝える興味深い物語です。

令嬢の身分を失うとこれまで接してきた人々の態度が手のひらを返したものとなり、セーラはつらい目に遭います。それでも、令嬢時代から優しく接したメイドのベッキー、学友だったアーメンガード、それにロッティといった友人の支えを得ながら、希望を失わず、毅然として振る舞い、優しさを失いません。

個人的に好きだったエピソードは、セーラが初めて、「屋根裏部屋」に行くシーンです。屋根裏部屋は夏に熱く、冬に寒く、一般的には過ごしやすい環境ではありません。令嬢として過ごしたセーラにとって、「ただ眠るだけの場所」に近しく、過ごしやすさや快適さを考慮されない環境は別世界でした。しかし、当時のメイドはここに私室を割り当てられたわけで、メイドにとってはなじみの光景です。

話としては最終的にこの時代らしいハッピーエンドを迎えるわけですが(孤児になった少女が庇護者に出会い、同じ境遇を味わったメイドと一緒に幸せな暮らしに戻る)、主人と使用人の視点で見ると、違って見える作品です。

日本では世界名作劇場で1985年に『小公女セーラ』として大人気を博し、2009年にはTBSドラマ『小公女セイラ』が放映されるなど、メイドブームの影響も若干感じられる展開をしています。

直近の海外映画では『リトル・プリンセス』(1995年)が舞台をアメリカとして作られており、それによって話の筋やキャストの点で原作との相違が出ており、あまり好きではありません。AMAZONでは評価が高く、「イギリス」だと思い込んでみた私の偏見(裏切られたとの印象)によるものが大きいのでしょう。
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バーネットは『小公子』『秘密の花園』でも家事使用人を登場させており、彼女が描いた時代で、また彼女の本を読む読者にとって「使用人」は当たり前の存在でした。その視点は暖かく、信頼も見受けられ、彼女の家庭の使用人事情にも興味があります。

備考ですが、小説は翻訳者の年代による相違も大きく(古くから日本に翻訳されているので、文体が古すぎるものもある)、また子供向けの本も多く出ており、正直、迷うかもしれません。私は、上記AMAZONリンクしたものを読んでいます。