これはなかなか評価が難しい本です。ホームズが世話になっていたハドソン夫人の一人称で、ホームズの小説中のキャラクターやエピソードを交えながら、現実に使えるヴィクトリア朝のレシピを紹介してくれます。厳密にいえば資料本ではなく、ホームズをとっかかりにしたレシピ本です。その点で、料理は材料を揃える難しさがあるものの、再現性が高い(料理研究家が書いている)書籍です。
本としては、ホームズファンならば楽しめるエピソードが随所に盛り込まれていますが、レシピと渾然一体となりすぎていて、情報を読み取るのが大変です。読んでいて途中で飽きることがありました。レシピごとの話は長く、「あぁ、こんなおばさんいるいる」という話し言葉で書かれているので、頭からまとめて読むというより、必要に応じて読みたいところを読む方が楽しめます。
残念なことに私は熱心なホームズファンではないので、エピソードをそんなに理解できませんが、用語集や補足、暮らしの便利レシピ集など、料理以外のヴィクトリア朝の生活を知る上で参考になる知識がちりばめられていて、その点では生活に近いヴィクトリア朝の副読本としての利用価値があります。
値段が4000円近く、正直なところ、情報に比してコストパフォーマンスが悪すぎます。決して悪い本ではないのですが、本当に定価が高すぎます。どこかで読んでみて、その上で気に入ったら買うというのが、個人的には良いと思います。好きな人には、はまるはずです。
レシピ中心ではありますが、当事の料理を「本当に作りたい」人にとっては、必ずしもわかりやすい調理法の伝え方をしているように思えず、また完成予想図たるカラーの写真が無いので、ヴィクトリア朝の料理を作りたいならば、他の専門の本を探した方が望ましいのではないでしょうか。
・ヴィクトリア朝が好き
・当時の料理に興味がある
・ホームズが好きでなんでも知りたい
この3点を満たす方を想定していると思います。
類書では『アガサ・クリスティーの食卓』がオススメです。
文庫版が後に出ています。