[参考資料]ヴィクトリアン・サーヴァント


2005年に刊行から30年の歳月を果て、THE RISE AND FALL OF THE VICTORIAN SERVANTが翻訳されて登場しました。それが、『ヴィクトリアン・サーヴァント』です。

同書はヴィクトリア朝使用人の起源、メイドさんを雇う側、雇われる側、そして男女使用人の仕事、使用人の社交生活、主人との関係、事件いろいろ、そして20世紀に入った使用人世界の転換などを扱い、1冊で完成しています。今までに何度も本を薦めてきましたが、絶対に買うべき、と自信を持って言える本です。

この本は自分の成長に合わせて、何度も読めます。最初は使用人の仕事内容や就職の仕方、それに日々の生活などを読むと楽しめますし、使用人が置かれていた社会背景を理解する「航海図」としても必須です。20世紀には「使用人問題」と呼ばれる、使用人需要が供給を上回る事態も生じましたが、その問題について政府がなぜ取り組んだのか、どう対応したのか、そしてなぜ解決しなかったのかが見えてきます。

ヴィクトリア朝使用人を好きな人にとって、歴史的な一冊になるのは間違いないですし、イギリス文学の社会背景(クリスティやディケンズ、ハーディ、それに最近扱った『比類なきジーブス』)に興味のある人も、読んでおくと作品の面白さが広がります。ただ、イギリス史を理解している人向けに書いてあるので、イギリスの社会背景解説は限定的です。また、「ヴィクトリア朝の物や文化」がわかりやすい、とはいえません。あくまでも使用人の資料です。

英書の初版は1975年、刊行された年からちょうど30年前です。

■英語版目次
Chapter 1 The Origins of Domestic Service
Chapter 2 The Servant-keeping Classes and their Problems
Chapter 3 Getting a Place
Chapter 4 The Daily Round:Female Srevants
Chapter 5 The Daily Round:Male Srevants
Chapter 6 Social Life ‘Below Stairs’
Chapter 7 Employer-Servant Relations
Chapter 8 Misdoings and Misdemeanours
Chapter 9 The Winds of Change , 1900-14
Chapter10 The Final Phase

メイドの研究をしたい、論文を書きたいと思うならば必読ですし、この本が存在した上で何かを書くならば、覚悟がいります。自分自身、この本と最初に出会っていたら日本で研究をしませんでしたし、今研究を続けているのは、この本で満足できなかったからです。尚、同書で満足できない方は、Pamela Horn氏の『Flunkeys and Scullions』はジョージ朝(18世紀~19世紀初頭)、『Life Below Stairs in the Twentieth Century』をお読み下さい。いずれも2000年代に書かれており、『ヴィクトリアン・サーヴァント』に足りなかった視点を補っています。また、『ヴィクトリアン・サーヴァント』自体が2000年以降に改訂されており、最新の内容になっていることを明記しておきます。

スタート地点にして、ゴール、となる一冊です。学べば学ぶほど、この本の偉大さを知ります。この本を超える研究書は、同じ切り口ならば存在しないでしょう。それほど、完成した一冊です。