メイドさんに興味のある人ならば、絶対に読むべき一冊です。
日本のヴィクトリア朝関連本を読んでいて、好奇心は満たされましたが、より細かい生活のレベルでの資料、特に使用人に関する資料が欠如しているのに、気づきました。『路地裏の大英帝国』でも使用人についてそれなりに言及していた箇所があったので、その参考文献に興味を抱きました。
「ならば本場・イギリスの本を読もう」
そうして、日本のきちんとした研究本の巻末に出ている参考文献のタイトルを拾い上げ、関連しそうな資料を集め始めました。その中で、複数の本で紹介されていたのが、この本です。『路地裏の大英帝国』の使用人解説は、そのほとんどがここに依拠しています。それほど、この資料の完成度は高いです。
Pamela Horn氏は、非常に安定した文章、綿密な資料、そして読みやすい英語で書いています。この分野の学界などは知りませんが、「信用できる」文章を書いています。著書は多岐に及び、ヴィクトリア朝を網羅するような研究内容を数多く刊行されており、この人の本ならばと既に5冊ほど買っています。
使用人が雇われる契機、雇われる方法、女性・男性各使用人の特徴、彼らが抱えていた問題や主人との関わり方、国勢調査の結果など、幅広く総合的に扱っています。正直、英書はこの本が一冊あれば、ある程度、間に合うと思います。
最初に読むならば、この本をお勧めします。
また、同じ筆者の本で、使用人の歴史を網羅することも可能です。ヴィクトリア朝に前後する時代について、同じく使用人だけを題材にした著作を残しているのです。
『Flunkeys and Scullions』はジョージ朝(18世紀~19世紀初頭)、『Life Below Stairs in the Twentieth Century』は20世紀、使用人が歴史の表舞台から姿を消すところを扱っています。どちらも相互に補完する形で構成されていますし、他の方の研究を受けてそれを補う側面もあり、まだまだこのジャンルの研究が、進化中なのだと実感させられます。
2005/06/08追記 待望の邦訳版『ヴィクトリアン・サーヴァント』が出ました。