『North and South』(北と南)はエリザベス・ギャスケル原作のBBCドラマです。この手のドラマにしては珍しく、工場経営者を主軸とし、描かれる風景も荒涼たるものです。そのギャップが、この作品の魅力です。
『北と南』の意味は、工業の発展した「North」と、田園広がる「South」という意味です。ヒロインMargaret Haleは「South」の太陽が輝き、田園地帯・緑が広がる世界を愛していましたが、父に振り回され、曇天・工場が多く、荒んでいるように見える「North」に引越しを余儀なくされます。そこに、旧来の英国的なる「田園地帯」と、新興勢力の「商工業地帯」との価値観の対立が見られます。
クラシックドラマお約束の「屋敷」「カントリーハウス」は、あんまり姿を見せません。貧民街や荒涼とした町の様子を、かなり力を割いて描いています。
ギャスケルの作品は、『クランフォード』(Cranford)含めて、多様な社会階層、年齢層といった立場の人々が出てきます。「閉ざされた家庭・階級」の狭い話ではなく、異なる立場にある人々が混ざり合い、そこで対立の構図から物語が生まれます。私が思うに、彼女は視点が一段高く、その当時の社会を作品に反映しています。
私が初めてギャスケルの作品に接したのは、BBCドラマ『North & SOUTH』です。このドラマは英国では『高慢と偏見』と比較されますが、何よりも「クラシックドラマ」を見慣れている人には、衝撃的な映像が多いです。
ヒロインの相手を務める「ダーシー」的な立場の男性John Thorntonがいます。この人は「North」を代表する存在で、若くして工場主を勤めています。が、ヒロインと出会うのが、「工場でタバコを吸った労働者を見つけたら、追いかけて、倒れたところを殴っている」場面なのです。紡績工場でのタバコは火事を招くとはいえ、これほど衝撃的な出会いも無いでしょう。
何よりも、工場で働く労働者のリーダーの一人に、ドワーフみたいな人Nicholas Higgins がいます。Brendan Coyleが演じていて、最高です。その上、娘役の人は、この出演がきっかけになったと思えるのですが、この後、『Bleak House』(荒涼館)で主役のEsther Summersonを演じました。
あと、主人公の家のメイドもなかなか際立っています。ぽっちゃりしたおばちゃんなのですが、主人公の母が若く美しかった頃から仕えており、その当時のエピソードを語るところは、メイド史に残る名シーンです。