ロシアの文豪トルストイの『復活』を映画化した作品です。ヒロインとして登場する孤児の娘、カチューシャはメイドでした。ロシアの上流階級や屋敷など、雰囲気あふれる背景も素敵です。
元々、私は英国ヴィクトリア朝だけではなく、帝政ロシアの時代も大好きなので、まかり間違ったらそちらの生活史を調べていたと思います。そんな前置きはさておき、時代は1899年か1900年、ロシアの貴族ドミトリィが陪審員として参加した裁判で、昔、彼が恋した女性カチューシャに出会います。その裁判とは「娼婦による、客の毒殺事件」でした。
主人公は若い頃、革命思想を持ち、論文を書き上げるために二人の伯母がいる屋敷に来ます。そこで彼は伯母たちが拾った孤児の子カチューシャと出会います。カチューシャは屋敷で教育を受けつつ、メイドとしても働いていたのです。ここで主人公はカチューシャに恋をして、欲望のままに犯し、(本物のトルストイは伯爵でした。農奴の女性たちに手を出していましたので、実体験でしょう)、彼女にお金を渡して逃げてしまいます。
それから彼女は娼婦に変わり果て、主人公の贖罪、魂の復活が始まるのですが、難しい話はさておき、素晴らしいスケールの「上流階級映画」です。出てくる屋敷の美しさと、残されたロシアの街並みは「ロシアスキー」でなくても、楽しめます。また、特にメイドを意識せずに見に行ったのですが、この映画では上流階級の生活が描かれていたので、いっぱい出てきます。カチューシャもメイド、ペテルブルグの主人公の身の回りを世話するのもメイド、伯母の家にもメイド……
映画『サハラに舞う羽根』のメイドさん登場シーンは1カットですが、『復活』はもっと出てきます。なのでメイドスキーな人も楽しめるのではないでしょうか。上映時間は「3時間以上」と長いですが、お尻も痛くなく、映画の世界に吸い込まれました。しかし、主演はイタリア人、言葉もイタリア語、微妙に情熱的な民族魂が見え隠れしていました。
以前見たドストエフスキーの『白夜』の映画はイタリアの監督(ルキノ・ヴィスコンティ)が作りましたが、恥ずかしがり屋の主人公が「イタリア人にしては恥ずかしがり屋」なだけで、原作では考えられないほど女性を口説く姿に、愕然としましたものです。また、『スターリングラード』も感情表現があまりにもアメリカ的な印象で、かなり辟易しました。(余談ですが、『スターリングラード』主演ジュード・ロウは、スティーブン・フライがオスカー・ワイルドを演じた『Wilde』で、)
『復活』は映画好き、19世紀好き、メイド好き、貴族好き、屋敷好き、或いはロシアスキーならば、オススメできます。今年見た時代映画の中では、かなり洗練された映画です。やはり、貴族だったトルストイが書けばこそ、上流階級の生活や使用人も当たり前に出てくるんでしょうね。
上流階級のテイストは、カチューシャの有罪判決に関わる裁決を下す役人の夫人(美人で主人公に好意を持つ)と、叔母(お金持ちで変な宗教・ラスプーチン?)にはまっている、このふたりの存在で際立ちます。かと思えば囚人の生活描写、移動風景、ロシアの大地の広大さと、様々な視点を忘れていませんでした。
それにしても衝撃的だったのが、女性囚人がいる刑務所の部屋に、「子供」が一緒にいた点です。子供は何の説明も無く、親に付き従って、そのまま一緒にシベリアに行ってしまうのです。びびりました。
尚、当時の帝政ロシア生活に関心ある方は、『19世紀ロシアの作家と社会』と『帝政末期のロシア人』をオススメします。