もとなおこさんの最新作はヴィクトリア女王を主役にした短編と、貴族の血筋の博士と結婚したガーデナーの娘と幼馴染だった執事の話に、初期作品の3本構成です。
もとなおこさんは日本のヴィクトリア朝描写をされている漫画家の中では筋金入りの方で、『マナーハウス』の副読本「エドワード朝生活の手引き」にも寄稿されており、この界隈では著名な方ですが、私は子供時代にほとんど少女マンガに接しなかったためか、「読みたい」と思うものの買いづらく、今まで、作品に接していませんでした。(同様の理由で、『バジル氏の優雅な生活』も未読)
作品へのこだわりは知っていたので非常にもったいないことをしていると思いつつ、今日に至ったわけですが、ようやく、手始めに一冊買いました。
作品のネタ晴らしに繋がる話は書けませんが、タイトルになっている作品はヴィクトリア女王が即位する前の時代を扱ったもので、『クィーン・ヴィクトリア』と時期が重なっています。
ファンタジックな設定で、あの時代の著名な作家も登場する遊び心がありつつ、歴史の行間を埋めるというのか、あの時代を知っていればこそ、背景や衣装、街並みのこだわりも伝わって、読んでいてニヤニヤしてしまいます。正直なところ、ここまで細かく描いているとは存じませんでした。
リアリティを分かった上で安心できる箱庭が再現されている、それも悲惨になり過ぎない範囲で、しかし伝えるべきことは伝えるというように庶民の視点もバランスよく盛り込んでいて、決してヴィクトリア朝からは離れていないところもすごいです。
ガーデナーの娘と執事を描いた作品も、当時の使用人を好きな人にはなんとも味わい深い話で、個人的に好みでした。ガーデナーはかなり知的な職業で、優秀なヘッドガーデナーともなれば中流階級のような扱いを受けられました。そして、彼らは「植物」を通じて、主人と同じ興味・関心・好みをシェアできました。設定として、植物学者の博士をガーデナーの娘の結婚相手に選んでいるのは、違和感がありません。
話の筋立ても面白く、久しぶりに「ヴィクトリア朝コミックス」を楽しんだ感じがします。このところ、資料漬けでいろいろな方向に拡散している自分にとっては、いい癒しになりました。