イギリスの年表的な歴史よりも、日々をどう生きたか、何を食べて、どこで眠り、どうやって稼ぎ、どんな風景を見ていたか、それが気になる人にとっては生活史の資料が一番です。
これから幾つか集中して取り扱っていきますが、最近出会ったのがこの本です。翻訳者の方のあとがきを見ると、総合的にここまで分かりやすく扱ったものは少ない、というのが翻訳の動機となったと記されていますが、頷けます。
類書は19世紀やヴィクトリア朝に限定していますが、本書は18世紀から20世紀までの3つの世紀を、同一の軸で分析しています。産業であれば農業、職業であれば労働者、それらの境遇が時代ごとにどう変わったのか、通して読みやすい構成になっています。
図説やイラストもそこそこ使われ、生活を取り囲む交通手段や郵便制度などもあり、イギリスの日常生活を流れで理解するには手っ取り早い良書です。ただ、この一冊だけで当然理解できるものでもないので、他の本との重ね合わせが必要となります。
個人的にはブースやラウントリーといった貧困調査を行った人々の具体的な調査数字や生活曲線というのでしょうか、労働者の財政状況の浮き沈みのグラフが、メイドを理解する上で役立ちました。
補足
刊行は2000年代と最近ですが、原書は1970年代に出されており、一部の歴史的解釈が最近の学説と異なる可能性があります。本書とは関係ありませんが、産業革命の個人生活や経済的な成長の影響について、従来は過大視されすぎており、限定的との見方も存在します。物の見方や評価は時代ごとの研究者の影響を受けるので、原書が出た年代については留意が必要です。