「中流階級」には、上下があります。真ん中はさておき、アッパー・ミドルクラスと、ロワー・ミドルクラスです。上・中流階級と、下・中流階級、と直訳すればそんな感じですが、この本はイギリスにあるこうした細かな階級差による、様々な文化や文学、表現を紹介してくれます。
『階級にとりつかれた人びと』から『英国紳士の生態学 ことばから暮らしまで』に改題して、講談社から2020年に再発売とのこと。以下の感想は、『階級にとりつかれた人びと』に準じます。
メイド関連の話題で言うと、一人ぐらいしか雇えない・無理をして雇おうとするのが「ロワー・ミドルクラス」、それ以上を雇えて上流階級に近いのが「アッパー・ミドルクラス」という区分になりますが、使用人階級を「労働者階級」(文章の中ではワーキングクラス)として、その階級がどう見られていたかなどの話も出ています。
具体的に言うと、これまでに取り上げてきた『比類なきジーブズ』『日の名残り』『ハワーズ・エンド』など、様々なイギリスの作品にある階級描写について丁寧に説明してくれていて、視点が増えます。
使用人というワーキングクラス内でも、上級使用人と下級使用人がいるぐらいです。「メイドの制服が発展したのは、増加した雇う側の人々が、その使用人たちの階級に近い人だったから」との知識は知っていましたが、その近さ・距離感というものを、実感できる本なのではないかと思います。
家事使用人にもそれなりにページ数が割かれていました。もうひとつ、似たような本で『不機嫌なメアリー・ポピンズ―イギリス小説と映画から読む「階級」』というのも面白い本です。彼女もナニー(ナースメイド)ですから……
こうした本の傾向として、どうしても研究者がいるジャンルの学問の領域に限られる傾向がありますが、多岐にわたる本も紹介してくれるので、値段の面でもいい本です。ただ、紹介されている参考文献がほとんど未訳かもしれないので、その点の障壁を越えるのは大変そうです。