[映画/ドラマ/映像]ハワーズ・エンド

映画『ハワーズ・エンド』はE.M. フォースターの原作小説(1910年)を映画化した作品です。英国の上層中流階級(アッパー・ミドルクラス)と下層中流階級(ロワー・ミドルクラス)が交わったことで生じた悲劇、でしょうか。監督は映画『日の名残り』のジェームズ・アイボリーです(順番としては『ハワーズエンド』が先の公開)。


映画はふたつの家族を中心に進んでいきます。

ドイツ系の姉妹(Schlegel家)が主人公で、妹ヘレン(ヘレナ・ボナム=カーター)が旅先の友人ウィルコックス家の屋敷ハワーズ・エンド(Howards End)で、同家次男ポールと婚約を交わし、姉のマーガレット(エマ・トンプソン)にそれを手紙で伝えるところから始まります。

ところがポールは財産を持たず、結婚は出来ないと告げてヘレンも納得したものの、婚約を手紙で知ったヘレンの叔母ジュリーが婚約者とはどんな人物かと確かめにHowards Endへ姿を見せ、そこで真実が明らかになり、すべてが終わります。設定上、ウィルコックス家は富裕層、Schlegel家は中流階級です。

それからしばらくして、家族揃ってロンドンで暮らしているSchlegel家の向かいの家に、ウィルコックス家が引っ越してくるところから物語が再開します。姉マーガレットはウィルコックス家当主の妻で、妹がかつて滞在した屋敷の相続者ルースと交友を結びますが、ルースは彼女にハワーズ・エンドの思い出を熱心に語った後、逝去します。

一方、妹のヘレンはある講義で青年レナード・バストの傘を間違えて持って帰ってしまい、それが縁で彼と知り合います。下層中流階級の書記である彼は、社会的な上昇を目指していました。

その後、亡くなったルースはハワーズ・エンドの思い出を聞いてくれたマーガレットに屋敷を残す遺言を書きますが、ウィルコックス家では遺言が正式ではないとして、燃やしてしまいます。これが後に家族の不幸を呼び込むのですが、こういう話もありなのかと、意外なラストが待っています。

今回は屋敷の壮麗なシーンなども無いです。ハワーズ・エンドは古い農村の建物で壮麗な雰囲気ではなく、またこの屋敷を巡る物語であっても、常に舞台とする話ではありません。服装も社交界のシーンが無いので、それなりです。

しかし、ロンドンでの日々の暮らしが、なかなか丁寧に描かれています。夕食の様子や交際で必要な名刺、そして馬車と自動車。ロンドンの邸宅の立派さやお茶会の様子など、随分、面白かったです。

個人的なお気に入りは、サングラスをかけた長男Tibby(姉妹の弟)です。姉達のおしゃべりにも飄々と接して、大学に通う好青年といった感じで姉たちを優しく見守ります。彼自身にはエピソードが何も無かったのですが、印象に残りました。

この映画は階級的な視点が多分に織り込まれており、新井 潤美先生の階級にとりつかれた人びと―英国ミドル・クラスの生活と意見による解説を読むと、映画をより一層深く楽しめます。

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