解説・補足
今回の新刊では、原点回帰の意味を込めて「創作」を軸にしました。「好き」だからこそ続いた活動ですが、その「好き」を思い出すために。なぜ、この同人活動を始め、どのように続いたのか、その答えを言葉にすることは簡単にできませんが、10年分の「メイドを見てきた、自分の視点」を集約すれば、見えてくるものもあるでしょう。
新作は時間的都合もあって中編2本に留まりましたが、「ハウスキーパーを目指して転職をしたスティルルームメイド、セシリー」と、「ボーイ→フットマン→執事と昇進を果たして、責任を受け入れていく青年サイラス」を軸としています。この両名は今までの同人誌で何度も出てきましたが、断片的に登場していたので、このようにまとまった形で話を伝えたかった側面もありました。
製作の背景や既刊との重複などは、冬コミ新刊は『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』(2011/12/05)に記していますので、既刊をお持ちの方はご覧ください。
今回は短編集の総集編なので、『英国メイドの世界』でメイドに興味を持った方に向けた「小説」として、お楽しみいただければ幸いです。
同人誌の情報
タイトル:誰かの始まりは、他の誰かの始まり 「ヴィクトリア朝の暮らし総集編・短編集」
著作:久我真樹、装画:碧宇様、デザイン:王将様
表紙イラスト :瑞様
表紙デザイン :U様
発行:2008年12月
サイズ/ページ数:A5/220ぺージ
頒価:1000円
オフセット印刷
頒布開始:2011/12/31(土) コミックマーケット81 3日目東ル-53b
委託先
※委託先の手数料の関係で、即売会の頒布価格と異なります。
・とらのあな
目次
【同人誌タイトルと短編の初出】
■ヴィクトリア朝の暮らし シリーズ
一巻 貴族とその屋敷 二〇〇一年十二月
二巻 貴族と使用人(一) 二〇〇二年十二月
三巻 貴族と使用人(二) 二〇〇三年十二月
四巻 貴族と使用人(三) 二〇〇四年十二月
五巻 使用人の生活風景 二〇〇五年〇八月
六巻 使用人として、生きて 二〇〇五年十二月
七巻 忠実な使用人 二〇〇六年〇八月
八巻 この倫敦の、空の下で 二〇〇六年十二月
九巻 終わりの始まり 二〇〇八年十二月
総集編 英国メイドの世界 二〇〇八年〇八月
■外伝・そのほか
Victoria Life Style Vol.1(外伝一巻) 二〇〇三年〇八月
Victoria Life Style Vol.2(外伝二巻) 二〇〇四年〇八月
ヴィクトリア朝の暮らしガイドブック 二〇〇七年〇八月
■合同誌への寄稿
M.O.E. Maid of Express 二〇〇五年〇三月
【短編集タイトルと掲載誌】
プロローグ
擦り切れた膝(M.O.E、五巻)
第一章 ある公爵家の物語
(一巻、総集編)
第二章 忠実なる使用人
ヴァレット(二巻、総集編)
侍女(三巻、総集編)
ハウスキーパー(二巻、総集編)
執事(二巻、総集編)
第三章 階段の途上
階段の途上(外伝一巻、五巻)
公爵夫人の変わらぬ午後
執事の本分(総集編)
コックの矜持(総集編)
ハウスキーパーの決意(総集編)
通り過ぎていく(五巻)
第四章 階下の暮らし
階下の暮らし(三巻、総集編・改題)
ハウスメイド(三巻、総集編)
パーラーメイド(三巻、総集編)
ナースメイド(三巻、総集編)
ランドリーメイド(三巻、総集編)
第五章 使用人として、生きて
帰還(四巻・改題)
スカラリーメイド(四巻、総集編)
キッチンメイド(四巻、総集編)
コック(四巻、総集編)
デイリーメイド(四巻、総集編)
スティルルームメイド(四巻、総集編)
第六章 公爵家のメイドたち
ブリキのトランク(五巻)
侯爵と共に(外伝二巻)
最初の主人(三巻)
夕暮れは明日へ(五巻)
すべて初めから(五巻)
公爵家のメイドたち(五巻・改題)
いっぱいのトランク(五巻)
第七章 春、ひとり窓際で
小さな決意(八巻)
リリィ(外伝二巻)
束ね髪(五巻)
在りし日の面影(書き下ろし)
冷たい頬(九巻)
その、指先(九巻)
春、ひとり窓際で(九巻)
第八章 執事の肖像
ボーイ(七巻)
フットマン(七巻)
ゲームキーパー(七巻)
コーチマン・グルーム(七巻)
ガーデナー(七巻)
執事(六巻)
第九章 誰かの始まりは、他の誰かの始まり
明日の自分(九巻)
開かれたドア(八巻)
誰かの始まりは、他の誰かの始まり(書き下ろし)
踏み出したその先(七巻)
最終章 屋根裏部屋の少女たち
ロンドンへの途上(八巻)
白い舞台(八巻)
屋根裏部屋の少女たち(八巻)
エピローグ
百年前(書き下ろし)
まえがき(『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』より転載)
【はじめに】
本書は同人誌『ヴィクトリア朝の暮らし』シリーズに掲載してきた短編集から構成する「短編集・総集編」となります。
同人誌『ヴィクトリア朝の暮らし』シリーズは二〇〇一年から二〇〇九年までに刊行され、創作と資料の二部構成をしていました。
「小説パート」では十九世紀の英国ヴィクトリア朝的雰囲気を伝え、「資料パート」は参考文献に基づき当時の家事使用人事情を解説するものでした。
この小説部分の総集編が、本書です。
元々、屋敷を舞台とした作品を書くための資料収集の一環として、同人で資料本を作成し続けてきました。講談社から資料本の集大成として『英国メイドの世界』を刊行したことで、資料制作に一区切り付きました。そこで、今回はもうひとつの原点である「創作」に立ち返りました。講談社版『英国メイドの世界』を刊行してから、いくつか心残りがありました。
ひとつは「メイドの主たる雇用主だった下層中流階級のメイド事情」と「二十世紀という百年の間にあったメイドを巡る環境の変化」、そして「貴族の衰退の理由」を書ききれなかったことです。
この「宿題」は、二〇一一年夏に刊行した同人誌『英国メイドがいた時代』で実現しました。
もうひとつは、短編集の存在が宙に浮いていたので、まとめたかったことです。
同人誌『ヴィクトリア朝の暮らし』シリーズ自体は、二〇〇八年に同人誌『英国メイドの世界 ヴィクトリア朝の暮らし総集編』(以下、総集編)とし、大幅改訂して刊行しました。
ところが、この総集編に入らなかった短編が存在しました。さらに、この総集編自体、絶版になりました。資料パートは講談社『英国メイドの世界』刊行で今も読める環境にありますが、総集編に収蔵した「小説パート」が宙に浮いていたのです。
そこで、もうひとつの同人活動たる「創作」の総括として、新作を書き足した「短編集・総集編」が生まれました。短編をまとめることで、作品間の繋がりが明確になり、単体で読んだ時より印象が強くなりました。また、読み返してみると、書いたタイミングによって「メイド研究の視点」の変化も出ています。
当初の作品は「公爵家の次期後継者を軸に、メイドの世界を眺める」視点でした。それが研究活動の広がりに伴い、「屋敷で働く・転職する家事使用人像」へと展開し、主人・使用人の上下関係から、「使用人同士」というフラットな観点に変わったのです。
その意味でこの短編集・総集編は、二〇〇一年から二〇一一年までの十年間に及ぶ、私の家事使用人イメージを映したものです。
お楽しみいただければ、幸いです。