[小説/コミックス]Under the Rose(アンダー・ザ・ローズ)

Under the Rose (1) 冬の物語 バースコミックスデラックス

著者/訳者:船戸 明里

出版社:幻冬舎コミックス( 2003-10-01 )

コミック ( 216 ページ )



Under the Rose 6―春の賛歌 (バーズコミックスデラックス)

著者/訳者:船戸 明里

出版社:幻冬舎コミックス( 2009-05-23 )

コミック ( 204 ページ )


個人的には、最も海外で映像化して欲しい作品です。

『Under the Rose』は英国ヴィクトリア朝の屋敷を舞台とした作品です。伯爵家一族を巡る屋敷を舞台としたドラマは複雑に錯綜しています。登場人物たちは多面性を持ち、巻を追うごとに光の当たり方が増えていき、彼らの評価が一変する作品には、余分な雑音はありません。ヴィクトリア朝と屋敷と貴族、使用人。この条件でしか成立しない世界は、そこに生きる人間たちの姿だけで、読者を魅了します。

作品は、いわゆる「館モノ」の要素を持ちます。屋敷に迷い込んだ部外者の視点で物語が進み、「館」という迷路の中に、読者は引き込まれます。1巻では伯爵の愛人・公爵令嬢グレースが死を遂げたことで、子息ライナスが屋敷に入り込み、母の死の真相を求めて動き回ります。

2巻以降は、館に勤めるようになったガヴァネス(女家庭教師)のレイチェルが自らの規範・価値観に基づき、伯爵一族と接する中で「同じく部外者」として見えた問題の解決や感じた疑問の追及などを行っていきます。役割を懸命に果たそうとするレイチェルは次第に周囲の人々の反応を変え、自分の居場所を見つけていきますが、物語は一筋縄ではいきません。謎めいた言動や行動をとる次男ウィリアムの意図は分からないまま、レイチェルは翻弄されます。

こうした人間関係を軸にした物語は、ヴィクトリア朝の退廃的雰囲気を持ち、当時の価値観(階級意識やまなざし)を反映しています。家事使用人(メイドやハウスキーパー)は空気のように生活の中に存在し、主人たちの生活を支えつつも、彼ら独自の人間関係を持ち、ひとつの「生き物」としての怖さも時に垣間見えます。

登場する貴族や使用人の存在感、距離感、価値観は、とても知識だけでは到達できない、「人をよく知っている」作家だけが描くもので、美しく魅力的に真似しがたい価値観を提示し、人間の強さも弱さも醜さも、美しさもここにはあります。

人は、他人の心が分からない。

人は、自分の本当の心も、分からない。

人の虚実を描き出すその構成力には驚かされ、楽しんでいたら突き落とされ、疑っていたら優しく包まれるような、翻弄されながらも先を知りたくなる作品です。現在は6巻まで刊行されており、2011年には7巻が予定されているはずです。

なお、この『Under the Rose』以前に刊行された『Honey Rose』は電子書籍として販売されています。こちらは完結しており、『Under the Rose』の後の時代を扱っています。読んでしまうと『Under the Rose』を見る視点が変化しますので、読者は作品の楽しみ方を、選ばなければなりません。

先に読むか、途中から読むか、一切、読まないか。

いずれにせよ、その楽しみ方は一度しか選べないものです。