[参考資料]The National Trust Manual of Housekeeping: The Care of Collections in Historic Houses Open to the Public

The National Trust Manual of Housekeeping: The Care of Collections in Historic Houses Open to the Public

著者/訳者:National Trust

出版社:Butterworth-Heinemann( 2005-12-29 )

ハードカバー ( 1041 ページ )


※このテキストはThe National Trust Manual of Housekeeping: The Care of Collections in Historic Houses Open to the Public(2009/06/13)から再構成しています。


英国ナショナルトラストが出版した、「歴史的な建造物である家/屋敷を公開するために、収蔵コレクションを手入れする方法」という専門書を買ってみました。Google Booksで本を探していた時にたまたまプレビューで閲覧し、その存在を知りました。とにかく分厚く、1000ページ近くあります。所持する資料本の中では単体で最も分厚く、戦闘力が高いです。

内容はカントリーハウスに存在する「絵画」「家具」「時計」「絨毯」「金属製品(金銀銅など)」「壁紙」「剣や鎧」「書籍」といった貴重な収蔵物を、どのように手入れし、また保護し、一般公開に向けて準備するか、というものです。

購入目的は、屋敷の仕事を知ることと、過去のマニュアルと現在のメンテナンススキルの相違(キュレーターレベルの高い専門性)がどの分野で大きいかを知るためです。

これまでにヴィクトリア朝を中心にハウスメイドのマニュアルや手記を通じて、屋敷の中の仕事を洗い出していますが、あくまでも本を書いた人の視点でしかなく、屋敷全体の仕事が見えませんでした。今回の本で、少なくともメンテナンスが必要な対象や、屋敷の中に「何があった」のかは、知ることができました。

高い専門性が必要なメンテナンスの相違をもう少し知りたいと考えたきっかけは「時計」でした。マニュアルや手記を見ていると時計のぜんまい巻きは執事がやっていたようなのですが、貴族の視点での回想集を入手した所、2つの屋敷でわざわざ「時計職人」を呼んでいました。

屋敷が職人を呼ぶことは珍しくありません。話が飛びますが、屋敷は多くの領地内の資源を使います。最近振り返っているゲームキーパーの例で言うと、シューティング当日はキジを森から追い出す勢子(ビーター)を地元の人から雇い、キジを育成する森の維持やキジを育成する場所の確保には森林労働者(Forester)と協力します。密猟者の摘発では警官と情報交換したり、ゲームをライセンスを持つ専門業者に卸したり、害獣に困る農場主のために働いたり、鳥かごの修理で業者を呼んだり、それはそれは多くの人たちと繋がっています。

というところで、領地の中にある人々(シンプルに言うとWorkerですが)を屋敷の仕事のために投入する、というのが当たり前との観点でいうと、時計職人の話も腑に落ちるわけです。

しかし、安直に「時計は時計職人」といくものでしょうか? 執事がねじ巻きをやっている屋敷もあるわけです。そこでこの本を通じて気づいたのが、わざわざ職人を呼び寄せるぐらいの時計って、もしかすると想像以上に繊細で、メンテナンスが必要なのではないのか、と。それも今回の本でフォローできました。

贅沢さのひとつの指標に、「手間をかける」ことがあると思います。たとえば革鞄や革靴。本物の製品になればなるほど、丁寧に使ったり、休ませたり、メンテナンスしたりと、時間と手間と愛情が必要になります。人間は何もかもに時間を割くには寿命が短すぎるので、どこかで手を抜きますが、所有するだけである意味最も貴重な人生の時間を費やし、生活や価値観を細部で変更させられるような、手入れが必要な製品は、「贅沢」なのです。

で、屋敷にあった時計もそれに限らない品物たちも、人の手が必要だったのは同じで、とても贅沢なのではないかと。もしも無自覚でいると、いつの間にか壊れたりするでしょう。ある貴族のが屋敷を相続した時に?屋敷そのものが老朽化しているのに気づき、修理を始めた所、梁にひびが入っているのが見つかった、というのを回想で読んだ気がしますが、屋敷という器も、その点では対象になりますね。

もちろん、時計に限らず、それこそ無視してしまいがちな室内装飾品(Ornament)や、階段の手すり、壁や天井に据えられた金属の装飾などあらゆるものが手入れを必要とするのだと、この本を読むことによって教えられます。当時のメイドたちはよく維持できたなぁと思いもしますし、維持できなかったのではとも思います。掃除の専門家になれても、今のこの本のレベルでは無理でしょう。

とはいえ、屋敷は人が生活してこそ、とも思います。屋敷を美術館とするか、生活空間とするかで視点も変わってきますが、少なくとも生活していた当時、そこは美術館ではなく、普段使用していたわけで、貴重かそうでないかは、後付の視点です。それが維持できなくなったから一般公開になるのですが、本当に時間とお金がかかっていたのだなぁと、再認識できました。

この本はいろいろな視点を当てていくので役立ちますが、自分が訪問したことのある、或いはこれから訪問するであろう屋敷がこのように修復されている、というのを知るのはなかなか面白いです。ただあるがままに公開されているのではなく、不断のメンテナンスをしてこそ、ということで。

1000ページもあるので目次を見たり、写真を見たり、興味あるところをさらっと眺めただけですし、頭から全部を読む気はしませんが、昔の本のメンテナンス方法があったり、図解での「本の運び方」(これは×)というイラストがあったり、見ているだけで面白い本です。