THE 1900 HOUSE
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ヴィクトリア朝・エドワード朝・ジョージ朝/摂政朝(海外)

『THE 1900 HOUSE』

制作&放送:Channel4
放送:NHK教育『家族で体験 1900年の生活』:2000年

3日目 メイドさんを雇う

Bowler家の母ジョイスは新聞に広告を出して、メイドを募集しました。募集職種はメイドオブオールワーク、ひとりで炊事・掃除・洗濯のすべてをこなさなければならない、最も厳しい待遇で働くメイドです。

ヴィクトリア朝研究家で番組アドバイザーのDaru氏はメイドを雇う際のアドバイスといて、相手の手のひらを見ることを薦めています。「softなhandはidle」、つまり荒れていない手はきちんと働いていない、そこをチェックしなさいという意味なのでしょう。

当時の面接

ヴィクトリア朝期にメイドさんを面接するならば、第一に紹介状(履歴書・職務経歴書+前職の主人による職務についてのコメント)をチェックします。細かい経緯は『ヴィクトリア朝の暮らし』2巻+3巻に記したので書きませんが、これが無いと、少なくとも立派な家で働くのは無理でした。

しかし、とにかく人手が必要な人たちが多かったのは事実です。今回のようなLower-Middleクラスでは、メイドを雇わないと、生活が困難になります。

故に、彼らは紹介状に必ずしもこだわりませんでした。『ミセス・ビートンの家政読本』では「まず知人の紹介、次に使用人エージェンシーでの紹介」と記されています。そして「紹介状も大事だが、心配だったら前にいた職場の主人に面会して、自分で調べなさい」とも薦めています。

今回のBowler家は新聞で求人しましたが、そうしたメディアで求人できる家庭は極めて恵まれていたでしょう。そこに応募してくる使用人も少なくとも新聞は読んでいるわけで、それなりのレベルだったのではないでしょうか?

ふと思ったのが、「就職」ではなく、「働きながらの転職」が可能だったかどうかです。これは幾つか資料をまた調べて、整理します。

面接結果

応募に来たのは初老の女性と、三十代前半?のふたりです。片方の若い女性は工場やランドリーの作業に関わっていたようで、結局、ジョイスは若い彼女、エリザベスを雇いました。

実際のところ、年上の使用人を雇うのはかなり気を遣ったのではないでしょうか? 現実にも年下の上司や年上の部下と言うものは存在しますが、なかなか関係には気を配ります。それこそ、ヴィクトリア朝の女主人が男性使用人ではなく、女性使用人を管理しやすい、と思ったのと同じ心理かもしれません。

エリザベスは非常に背が高く(180cm)、メイドさんならば、ハウスメイド(高いところに背が届く)か、パーラーメイド(スタイルがいいので)、もしも男性だったらフットマンとして高収入を得られたでしょう。

彼女は祖母も母親もメイドを経験しています。日本人の視点からすると珍しいかもしれませんが、祖母や祖父が使用人をしていたと言う人間はイメージするよりも多いです。イギリスの女性労働者の人口のうち、メイドさんが最大勢力を占めていた時期があったのですから。

同じChannel4の番組で、『THE 1900 HOUSE』をより発展させた最高の番組『MANOR HOUSE』でハウスメイドの役割を演じた、歴史を学ぶ大学生の女性(仮称:リアル・エマさん。眼鏡のハウスメイド)は祖母がメイドだったと語り、同じく執事を演じた男性も「祖父は執事だった」と語っています。

どんな待遇?

賃金で言えば、それほど高くは無いはずです。ナレーターによる解説では、主人の年収の五分の一程度。高額すぎる気もしますので、聞き間違いかもしれません。このクラスのメイドならば、せいぜい高くても主人の年収の十分の一以下だったはずです。

制服はダークグリーンのシンプルなもので、これにエプロンをつけて、キャップを被りました。中流階級で日々に忙しいBowler家の客人は少なく、中流でも下級「Lower-Middle-Class」なので、メイドに人をもてなさせる必要は無く、パーラーメイド的な「午後に着る、主人に仕えるための黒い制服・白いエプロン」、いわゆる現代的なイメージに近いメイド制服は着ていませんでした。

主人に接するにふさわしいとされた制服を持たなかったのは、逆説的ながら、それをするだけの時間が無かったからでしょう。食事の準備と給仕と後片付け、徹底的な掃除、それだけで彼女は一日が終わってしまいます。

住み込みではないメイド

エリザベスは毎日、正面玄関から通っています。しかしこれはヴィクトリア朝の都市や屋敷では数少ない光景です。正面玄関とは主人とゲストが使うもので、使用人が使うものではなかったのです。

その彼らは、地下への階段か、裏口か、いずれにせよ屋敷に搬入される荷物と同じ経路しか使うことを許されませんでした。詳しくはコラム『階段の下』をご覧下さい。

今回のドキュメンタリーで登場した家屋は平屋建てなので、地下は無いようでした。こうした家庭での使用人事情は知らないので、推測に過ぎませんが、規律を緩やかにして、正面から入れていたのかもしれません。使用人を従者とみなすか、家族の一員とみなすか、それで扱いは変わります。

とはいえ、当時のメイドはそのほとんどが住み込みでした。エリザベスのように通うのはもっと幼いメイド初心者(10代前半・近所で、メイドとして初めて働く)でしたが、彼女たちの手伝いは限定的で、住み込む必要性が低かったと思われます。

本物のメイドオブオールワークは早朝に起きなければなりません。暖炉を掃除して火を起こし、レンジを磨き、朝食の準備をして、というすべての作業を開始するのは朝の六時ぐらいです。これが住み込みでないならば、通ってきたメイドを「家族の誰かがその時間に起きて、中に入れなければ」なりません。

それは、ありえないことです。

現代的な感覚からか、それにスペースの都合からか、エリザベスは自宅から通勤していました。既に朝、ジョイスたちが起きている時間に家に来て、ジョイスにドアを開けてもらい、仕事をしていました。時間帯から考えると、ジョイスたちの朝食は家族たちで作っていたのでしょう。

エリザベスが働き続けられたのは、彼女が「日常に帰れた」からだと思います。現代に暮らし、シャワーを浴び、快適な生活を営みながら、日中は1900年の家でメイドとして働く。

四六時中、コルセットや重たい衣装をつけ、満足に風呂に入れなかったジョイスとは異なり、エリザベスには「回復」の機会がありました。もしもそうでなければ、エリザベスはすぐ仕事を辞めてしまったと思います。

メイドが登場したことで家事から解放され、ドキュメンタリーは、より1900年の社会生活に近づいていきます。しかしその前に、興味深かった「シャンプー購入事件」、レシピや健康について書きます。


1話目『出演する家族を募集』
1話目『家族が実際に暮らす家を再現する』
2話目『生活が始まる/レンジと衛生』
2話目『食べ物/買い物と食事』
2話目『洗い物は大変/衣装と洗濯』
3話目『掃除も大変/ホコリでいっぱい』
3話目『メイドさんを雇う』(2005/02/28)
3話目『肌で感じる1900年(上)/髪を洗う』(2005/03/04)
3話目『肌で感じる1900年(下)/衣食住』(2005/03/04)
4話目『メイドさんと向き合う』(2005/03/13)
4話目『End Of An Era』(2005/03/17)

旅行記:2005年秋・『THE 1900 HOUSE』の街へ行ってみた

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