「屋敷に仕えるメイド」と「コスプレ」を合わせたのが『これが私の御主人様』(まっつー・原作、椿あす・画、スクウェア・エニックス、2003年)です。
両親を事故で失い、財産を相続した中学生の少年・中林義貴は、家政婦の求人に家庭の事情で応募してきた沢渡いずみとみつきの姉妹と出会い、「憧れのメイドさん!を雇う」と決意し、ふたりをメイドとして雇用します。
義貴といずみの相性は悪く、ことあるごとに反発しますが、いずみはこの仕事を辞めることがで
きません。屋敷の高価な調度品を壊してしまい、借金を背負ってしまったためです。
この作品は4つの点で、特徴的です。
1つ目が、メイドが好きな主人公がいる点です。義貴はメイドを雇うことを夢見ていたり、自分を「御主人様」と呼ぶように命じたり、ふたりに着せるメイド服を自分でデザインしたりと、メイドに並々ならぬ思い入れを持ちました。そうした義貴がメイドに思い入れを持つ下地として考えられるのは、「ギャルゲー好き」設定です。義貴の行動方針を見るに、そのままアダルトゲームの主人公であってもおかしくありません。
特徴の2つ目はメイド服が、ここで取り上げた作品の中で最も露出が大きく、かつかわいいと女性コスプレイヤーの支持を集めた点です。最初にメイド服を着たいずみは、義貴に文句を言いますが、義貴は取り合いません。
「こんなHな服着せるつもり?! 背中はこんなに出てるし!!
スカートは超短いし! それにガーターベルトなんて…こんなの着けたの初めてよ!」
「しかしメイド服ならガーターベルトは欠かせないだろう」
(『これが私の御主人様』1巻、pp.17―18)
姉のいずみにHすぎると不評なこのメイド服を、妹のみつきは「この服かわいいですねー」と受け入れます。表紙を見ると、これまでのメイド作品と一線を画していることもわかります。それは、右側にいるメイドの沢渡みつきが、後ろ姿でソファに膝をつき、背中や靴の裏を見せ、振り返っている構図です。ほとんどの作品で、メイドは後ろ姿を表紙で見せません。
さらに、この作品は、女性コスプレイヤーの支持を受けました。4巻(2006年)には露出が多いこのメイド服の廃止を訴えるいずみに対して、義貴の回答は「全国のコスプレイヤーさん達の苦労をムダにする気か?」と答え、「かわいい」という反響を伝えます。
作品とコスプレイヤーとの相性の良さを示すように、原作のまっつー氏は作品のコスプレコンテストを行い、4巻20話では受賞したコスプレイヤーをイラストで紹介しました。
そして3つ目の特徴が、作品のメイド服がリアル化した点です。コスプレイヤーがリアル化しただけではなく、アニメ化やDVD発売などの際にはメイド喫茶とのコラボレーションイベントが行われました。
アニメ副読本『TVアニメーション これが私の御主人様 コンプリートガイドブック メイドBLOG』(スクウェア・エニックス、2005年)に「Cafe Mai:lish」と「CURE MAID CAFE」などでのイベント(店員のメイド服がこの作品仕様に)や、DVD1巻発売の2005年に秋葉原で実施された、36人のメイドコスプレした女性による販促キャンペーン(同p.92)が紹介されています。
取り上げた作品の多くはメイド喫茶ブームが始まっていない時代を起点としていますが、『これが私の御主人様』はメイド喫茶ブームにまたがるため、ブームのピークの2005年以降(そしてアニメ化以降)の作品内で、著者が初めて行ったメイド喫茶は「CCOちゃ」でやっていた『これが私の御主人様』イベントと語って自分の作品のメイド服をリアルで見た感想を記し、また同じ4巻にはメイ
ド喫茶訪問で「ぱるてぃーるに行った」「CCOちゃに行った」「よかちゃに行った」「天神Styleに行った」「@home cafeに行った」「Cafe Mai:lishに行った」と近況報告をしたりしています(同p.50、p.148)。
4つ目が、この作品のメイドは「日本のメイドさん」という忠義献身・家事のプロではまったくない点です。主人公・義貴と同年代のいずみとみつきは自分の出来る範囲で家事を行うのでプロフェッショナリズムの発揮もありません。また、義貴がメイドとして認めるのは、まずメイド服を着た姿に対してです。
義貴は自分が通う私立中学校に、この姉妹を転校させて、側に置きます。同級生がメイドをするという関係性は決して初めてのものではありませんが、学校ではメイドであることを言わないものの、いずみに命令をして、主従関係をチラつかせるなど、物語に緊張をもたらすのに一役買いました。
露出が多いHなメイド服デザイン、コスプレイヤーの支持を得たこと、アニメ化、そしてメイド喫茶ブームの中、喫茶とのコラボで作品のメイド服をリアル化したことなどの影響度を鑑みると、『まほろまてぃっく』『花右京メイド隊』と並び立つ「メイドブーム」を代表する作品と言えます。
メイドが好きな原作のまっつー氏は、2006年に『メイドをねらえ!1―中林校長の野望』(まっつー・原作、椿あす・画、富士見書房、2007年)を刊行します。これは、『これが私の御主人様』主役の中林義貴の従兄・中林義元が経営するメイド養成学校「私立百合姫女学園」を舞台にした作品です。
中林義元はメイドマニアで、「我が校卒業生の就職率は100%!! 何故だ?! 校長が自分の屋敷で雇うからさ!!」「生徒たちよ 勉学に励め!! 私に仕えるために精進せよ!! メイドのメイドによる私のための王国を作るのだ!!」と演説します(まっつー・原作、椿あす・画『メイドをねらえ! 1―中林校長の野望』、富士見書房、pp.18―19、2007年)。さらに彼が経営するメイド喫茶があるなど、「日本のメイドさんブーム」と、「メイド喫茶ブーム」が混ざり合っています。
先ほど、したところ、検索結果上位にはフィギュアなどが来ていました。そのあたりの商品展開も含めて、他の作品とは異なっています。