伝統的な「屋敷に仕えるメイド」と「戦闘メイド」の系譜を受け継ぎつつ、突き抜けた極致の作品が、『仮面のメイドガイ』(赤衣丸歩郎、富士見書房、2005年です。
物語は「戦闘メイド」が存在する理由となる「身辺警護」を軸としました。主人公・富士原なえかは弟の幸助とふたりで暮らしていました。なえかは、18歳になった時に祖父の財閥を相続する権利を持つがゆえに、命を狙われます。その刺客から孫を守るために祖父が派遣したのが、「謎のマスクとサメの歯を持つ筋骨隆々の大男」である仮面のメイドガイ「コガラシ」です。
なぜ筋骨隆々の男性がメイド服を着ているかはさておき、とにかく「メイド」を名乗り、メイドとして振る舞うこの作品は、萌える対象として描かれ続けたメイドイメージに、ひとつの歴史を残しました。
メイド服を着れば、誰でもメイドたりえると。
暴走しがちなコガラシを制御し、なえかの生活をサポートするメイドのフブキはS級メイドを名乗りながらも(この作品でも「S級」などのランク付けがなされています)、実は「ドジっ娘」メイドという設定も備えました。
メイドブームを反映し、なえかの弟・幸助はメイドマニアでした。作中でもメイドは様々な形で姿を見せます。なえかの命を狙ったり、コガラシと対立したりする「メイド忍軍」(忍者なメイド)や、「大英帝国マジカルメイド教団」(英国ヴィクトリア朝系のメイド)、さらには「古代メイド王朝」といった言葉が登場するなど、世界の端々にメイド設定が盛り込まれています。
メイドを前提として揺るがない世界観は、第3期で取り上げた『まぶらほ』番外編のメイドシリーズに共通する要素があります。
『仮面のメイドガイ』は2008年にアニメ化されました。
Text from 『日本のメイドカルチャー史』