THE 1900 HOUSE
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ヴィクトリア朝・エドワード朝・ジョージ朝/摂政朝(海外)

『THE 1900 HOUSE』

制作&放送:Channel4
放送:NHK教育『家族で体験 1900年の生活』:2000年

衣食住/大変な時代

さて、家族の健康状態はどうだったでしょうか? 衣食住のすべてが変わったのです。生活習慣のみならず、環境、食事までが変化すれば、当然、人間に与える影響は大きくなります。

父ポールは軍人で毎日仕事に出ているので、それほどナーバスになりません。普通に家を出て、普通に電車に乗り、普通に海軍オフィスへ勤務します。髭を剃るのに当初は苦労しましたが、床屋に行くことも許されていました。

また、「父親はMaster of the House」だという 当時の価値観を示す本の一節が紹介されており、彼は比較的自由な生活を過ごしていたかもしれません。家族愛が強そうなので、妻や娘たちの不安定な気持ちに直面していたようですが、家にいる時間が短く、その意味では「あまり苦しまなかった」と思います。

子供たちも学校に行っていたようなので、母ジョイスだけが家に取り残されました。元々が仕事をしていた女性でしたが、ヴィクトリア朝の中流階級の女性は外部で働けない(働くべきではないと言う規範・職場もほとんどない)のでこもりきりです。

その上、きついコルセット(Bloody Hellな)を絞め、重い服を着て、作業をしていました。退屈で、毎日繰り返すこの仕事に、彼女は意味を見出せません。それを考えると、子育ても終わり、ほっと一息をついた現代の専業主婦と、なんら変わりません。

(それをジョイスから引き継いだメイドのエリザベスも、それは同じだったかもしれませんが、彼女には「金銭・賃金」という対価がありましたので、仕事をする者が感じる、ある種の満足感はあったかと思います。細かい話は次回に。)

「仕事を奪われて社会的にも外部と繋がっていない」
「湯が満足に出ない」
「レンジの熱が足りない」
「髪の毛も満足に洗えない」

20世紀の暮らしでの当たり前がまったく当たり前ではない生活に、ストレスも溜まります。

コルセット

そんな折、娘が母に「タイトレイシング論争」の話をします。コルセットをきつく締めた結果、食欲不振や体調不良、それに骨格や内臓が歪むという、コルセットに反対する動きが当時のヴィクトリア朝で起こりました。

娘はさらに、「神経質になる、ヒステリーを起こしやすくなる」など、この家で暮らし始めてから何度かキレている母や、自分自身を鑑みて、医師が呼ばれました。

母ジョイスの肺活量は、コルセットを着けたままと外した時では三割近く違っており、締めるだけで身体機能の低下、呼吸と言う意識しない動きさえも制限されてしまう姿が描かれています。

但し、コルセットそのものは『下着の誕生』によるとネガティブな要素だけではありません。「細さが美しさであり、そうありたかった」と思った人がいたのも事実です。興味のある方は、同書をオススメします。

フィッシュ&チップス

衣装に苦しみ、住居に苦しみ抜いたBowler家。では、人間の三大欲求である「食欲」は満たされたのでしょうか?

Bowler家は「ベジタリアン」の食事をしています。また、味付けも当時のものが優先されるので、一番若い9歳の長男ジョーは味を好めず、食事を摂らなかったりと、元気がありません。育ち盛りの子供に、牛乳やバターなど、乳製品無しの生活は辛いようです。

そんな彼らが唯一、外で食事を買うのを許されました。それがイギリス名物・フィッシュ&チップスです。当時のロンドンには1000店以上、お店があったそうで、母ジョイスと娘は笑顔で現代の買い物を楽しみます。

イギリスで出されるフィッシュ&チップスは、本当に量が多いです。お店では魚の種類を指定して、揚げたてのフィッシュとチップスを新聞紙にいれて、渡してくれます。

手のひらよりも大きな切り身、ポテトも「本気?」と思うほどに量が多く、油が多いのですが、寒いときに食べるとおいしいです。(完食できませんでしたが)

家族は持ち帰ったフィッシュ&チップスを囲み、笑顔で食事をしています。他に外食の機会は無かったようですし、レストランを使えるのは、もう少し上のクラスでしょう。

外で何が食べられた?

フィッシュ&チップス以外にテイクアウトできるものとしては、以前、NHKの料理番組であった「うなぎゼリー」「うなぎパイ」がありますが、何よりも当時の雰囲気を楽しむには、ヘンリー・メイヒューの本がオススメです。

当時のロンドンの下層社会の様子を生き生きと描いたそのレポートには、素材の中身はさておき、美味しそうな「ファストフード」が目白押しです。

店を持たずに、それこそ球場にいるバイトの販売員のように街中を歩く、呼び売り商人という職業がありました。彼らが扱う食べ物は多種多様で、縁日みたいです。

「ハムサンド売り」
「屋台のコーヒー売り」
「路上のパイ売り」
「路上のプディング売り」
「エンドウ豆のスープおよび熱いウナギを売る商人」
「羊の足を売る女性」
「焼きジャガを売る街頭商人」
「プラム入り『プディング』あるいはゆで団子」

食事はおいしくない?

家族がそこそこ食事を楽しめているようなシーンは、当時あった「スパゲッティ」だったり、今回のドキュメンタリーでは家庭料理にスポットを当てていませんでした。レンジの火力が足りない問題は、糸を引いていたのでしょうか?

ヴィクトリア朝でベジタリアンであろうとすることは、難しいのかもしれません。『英国ヴィクトリア朝のキッチン』に出てくる野菜紹介でも、茹でた野菜が多いです。

また当時の食事を語る際には、「猟鳥(ゲーム)」「鹿」などの、ある種「贅沢なコース料理」のイメージが強かったり、現代では手に入りにくい「魅惑的で新鮮な手作りの乳製品」だったりと、中流階級では手に入りにくいものも多いです。

一般家庭で主流だったボイルしたり、ローストした肉を食べられないので、メニューの幅が狭かったかもしれませんし、既に家庭の中枢に入り込んでいた玉ネギやジャガイモを食べている様子もありませんでした。

最初こそ料理のシーンがありましたが、料理そのものには光を当てなかったのは、「食事にエネルギーを使えなかった」のでしょうか。単純に、「料理のレシピ本」が不足していた、現状はそんなものだって、という19世紀家庭の素のままの姿かもしれません。

とはいえ、病人も出ず、生活は無事に進んでいくのです。衣食住を経験することから、舞台はより「社会的な活動」に向いていきます。


1話目『出演する家族を募集』
1話目『家族が実際に暮らす家を再現する』
2話目『生活が始まる/レンジと衛生』
2話目『食べ物/買い物と食事』
2話目『洗い物は大変/衣装と洗濯』
3話目『掃除も大変/ホコリでいっぱい』
3話目『メイドさんを雇う』(2005/02/28)
3話目『肌で感じる1900年(上)/髪を洗う』(2005/03/04)
3話目『肌で感じる1900年(下)/衣食住』(2005/03/04)
4話目『メイドさんと向き合う』(2005/03/13)
4話目『End Of An Era』(2005/03/17)

旅行記:2005年秋・『THE 1900 HOUSE』の街へ行ってみた

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