漫画『メイドさんは女王様』(内村かなめ、ラポート、2003年)は、SMクラブで女王様だったかりんが、街で見かけた屋敷に住む少年ゆうに恋をして、募集していた屋敷のメイドとして働く作品です。
1話の初出は1998年の同人誌、とのことで、まさにメイドブームの渦中に描かれました。
「S」で女王様のかりんは、主人を傷めつけることを妄想しながらも、恋の対象である半ズボン姿の主人を見て我を忘れかけたり、メイド服を着てくれた主人を見て胸を熱くしたり、恋に胸を焦がします。
これまでのメイド作品との大きな違いは3点です。
1点目はメイドが主役の作品でありながら、御主人様となる少年を積極的に追いかける点。これまでの作品でメイドが主役であっても、多くの場合、メイドは「萌えられる対象」でした。そして、主人のゆうは、かりんの恋心に気づきません。
2点目は、アダルトゲームが成立させた「御主人様(主)とサーヴァント(従)」という関係から、職業としてはサーヴァント(従)でありながら、本質的には女王様として主体側になる点です。強引に出たいものの、ゆうを大切に思い、行動できないかりんの葛藤も、作品の面白さになっています。
3点目が、この物語でメイドは「特別」ではありません。普通に仕事として存在し、メイドの存在に萌える人や、ありがたがる人はいません。あくまでも個人として、登場キャラクターたちはそれぞれと向き合っています。
「ビバ!! メイド業!! 向いてるとかそーいう問題じゃなくってぇっ!! お金貰って好きな人の御世話!! 最高じゃん!!」
(『メイドさんは女王様』、p.27)かりんのこの言葉は、「好きな人のそばにいるために、メイドになる」という、メイドの役割が持つ物語上の可能性を示しています。