『ぼくのメイドさん』

2001年に刊行された『ぼくのメイドさん』(大古真己、FOX出版)の内容は、メイドとの恋を扱っています。ただ、この恋の相手となるメイドさんは、なんと幽霊でした。

 大学新一年生で、アパート一人暮らしを始める杉山亮太。そこへいきなり可愛いメイド・柳下あやのが現れ、お世話させて戴きますと挨拶した。彼女は実は幽霊で、昭和初期にアパートの建つ前に在った大きな屋敷のメイドだったとか。ずっと働いていて、働き過ぎで死んでしまった可哀想なメイドだった。
(『ぼくのメイドさん』、あらすじ、2001年、http://www.cmoa.jp/title/7133/)

あやのの境遇に同情した亮太はあやのとデートをして、その途中であやのを意識し始め、ふたりは相思相愛になって暮らしを始めます。幽霊としてのあやのは、姿が見える存在で、お茶を入れたり、掃除や料理をしたり、アイスクリームを食べたり、一時的に人に触れることもできるなど、実生活に影響を与えることもできます。

古風な時代に生まれたので、あやのの考え方は古く、デートの時に亮太と並んで歩くことにも抵抗を示します。また、本書ではミニスカートのメイドイメージが幾つか出てきましたが、ロングのメイド服で、またスカートの下もドロワーズ(下穿き)を穿いています。そうしたこだわりは、掃除の
際や幽霊として空を飛ぶ際に出ています。

あやのとの暮らしは、亮太を愛する妹の加奈や、悪霊を追い払う巫女といったキ
ャラクターたちに囲まれた賑やかなもので、様々な出来事が起こる中で亮太とあや
のは絆を深めていきます。

メイドが屋敷を離れて日常生活に入り込んでくるこの作品を描いたのは、1990年代の同人時代を含めて積極的にメイドを描いた大古真己氏です。「メイドが好きでメイド作品を商業出版で発表する」メイドスキーな方で、製作する同人誌『ハンドメイド』シリーズで、継続してメイドについて熱く語っています。

その様子は、『まぶらほ メイドの巻』のモデルになったと思えるほどで、ロングスカートのメイドに萌える主人が熱弁を振るうシリーズは、熱気がこもっています。

「ばかものが!! メイドがメイド服を脱いでどうする」
「メイドがメイド服を脱いでメイドと認識できる制限時間は15分32秒!!」
「脱いでいいのは風呂に入る時だけだぁっ!!」
「ちなみに入浴用メイド服も現在開発中!!」
「着がえは全部メイド服!!」
「下着はズロース(ドロワーズ)とペチコートだ」
(大古真己『ハンドメイド』ACT.5、同人誌、p.10、1999年)

メイドが好きなクリエイターが同人でメイドが好きと表現し、メイド作品を商業で発表する流れは、漫画『エマ』の森薫氏でも見られる動きです。商業デビュー前の森薫氏も2000年の『ハンドメイド ACT.6』にゲスト参加しています。

大古氏はその後、2007年にメイド作品『ゆるしてください』(幻冬舎)を刊行しました。メイドさんが好きでしょうがない主人と、その屋敷で「アンドロイド」と偽って働くことになったメイド・麻衣を主役とした作品です。