『ろりぽ∞』

メイド喫茶を舞台にした『ろりぽ∞(アンリミテッド)』(仏さんじょ、一迅社、2006年)は、「メイド喫茶ブーム」そのものが作品の根幹を成し、メイド喫茶同士が「メイドコンペ」で店のランクを上げることを目指す、「メイド喫茶」作品です。

「メイドコンペ」とはメイドの接客を受けた「ご主人様」から投票される「萌え」ポイントを競うものです。

表紙を飾る主役の鎌ヶ谷みさきは、五ツ星メイド喫茶「アンリミテッド」を代表するメイドで、「みさきターン」というトレイを手にして身を翻す接客術で、メイド喫茶業界の顔となっていました。

ストーリーは「メイドコンペ」を軸にしつつも、メイド喫茶ブームが起こった理由は、現実の日本と異なっています。作中で10年前に放映されたアニメ『メイドウェイトレス★みのりちゃん』の影響でブームが引き起こされたのです。主役「みのり」の声優を務めた蓮華寺ほだかは人気を背景に選挙に出馬、その後、作品内で首相を務めるほどの国民的な存在になっていました。

みさきはこのアニメの影響を強く受けて育ち、マニアの間で噂となる「アニメのモデルになった実在するメイド服」を探し、バトルを繰り返します。そんなみさきの前に、「伝説のメイド服」を着て姿を見せたのが、もうひとりの主人公、矢柱みのりです。

みのりは、みさきの「メイドバトル」を見て、両親が経営していた喫茶店をメイド喫茶「ロリポップ」としてリニューアルします。ここで、みさきとみのりを軸に、様々なメイド喫茶やゲーム喫茶、巫女茶屋などと、「メイドコンペ」が続きます。

メイド喫茶をネタにしたバトル作品かと思いきや、背景世界はしっかりと作りこまれており、なぜメイド喫茶がブームとなったのかの理由も現実世界とリンクさせつつ、「萌え」や「オタクへの偏見」といった要素を織り込んで描いています。破天荒な設定が随所にありつつ、王道的作品と言えます。

日本でなければ、かつメイド喫茶がなければ確実に存在しなかった作品であるだけに、メイド喫茶ブームをいち早く取り入れ、かつエンタメの形で描き出す代表作としても位置付けられるでしょう。







Text from 『日本のメイドカルチャー史』