『シャドーハウス』

『シャドーハウス』はとてもユニークな世界観であり、かつメイドとお嬢様の主従作品としての完成度も非常に高い作品です。

顔が真っ黒で見えない一族「シャドー」は「貴族の真似事」をして暮らしており、その一族のお嬢様ケイト・シャドーと、彼女に仕える「生き人形」のメイド、エミリコの日々の暮らしから、物語は始まります。「生き人形」の役割は、顔が見えない主人の代わりに、個性を発揮する「鏡」のような役割を担っています。この「顔が見えない」主人を理解しようと様子を伺い、少しドジなところがありつつ、主人と感情をかわしていきつつ、若い主人共々、一緒に成長していく感じが良いです。

面白い設定は、主人の感情が「煤」となって出てくるところです。顔が見えなくても主人の感情が様々な煤の形になって伝わってくるので、伝わっているようであり、また伝わっていないようであり、また自身の感情をメイドに伝え過ぎてしまう構造はユニークです。

さらに、「煤」をこのように取り込んだ作品は、稀だと思います(存在感のある煤は「まっくろくろすけ」?) 英国メイドを研究する私にとって、「煤」はメイドの仕事と切り離せないものでした。英国で主要な家庭用の燃料としても石炭を使っていた時代、煤は暖炉を汚し、煙突を汚し、レンジを汚し、部屋を汚し、床を汚しました。この「煤の掃除」はメイドにとって大きな仕事です。この点で、『シャドーハウス』に登場する「メイド」のエミリコにとって「煤の掃除」が非常に大きな仕事となっている描写は、素晴らしいと思います。

ちゃんと、ハウスメイドボックスも使っています!!!

もうひとつ、そもそもの「世界を巡る謎」の描き方も、特徴的です。当初は「生き人形」であるエミリコの視点で物語を見つつ、エミリコ自身は「生き人形」として生まれたてのような状態で未熟であり、知識もなく、主人であるお嬢様のケイトの指導や自身の部屋に貼られている張り紙を読んで自習したり、やがてはお嬢様の部屋と自分の部屋の外に広がる、「他のメイドたち」から仕事を含めて様々なことを学んで、行きます。

最初こそ「お嬢様のケイトの世話をする」「お嬢様と向き合う」だけの世界が、次第に広がっていくのです。それと同時に、「そもそもシャドーって?」「生き人形って?」「煤って?」という謎がどんどんと深まっていき、物語は「世界を知る」ことへと向かっていきます。そうした中で、「もう一人の主人公」としてお嬢様たるケイトの個性も強く出て主体的に動き出し、エミリコとの信頼溢れる主従関係を軸としながら、巻を追うごとに情報量が増えていく展開は非常に楽しいのです。

この「お嬢様とメイド」の主従関係の描き方も、とても美しいものです。お嬢様たるケイトと、メイドのエミリコの双方が物語を積極的に駆動する役割を帯びており、双方がお互いに影響を与え、片方だけでは物語の真相に辿り着けず、主従の絆が中心となって、それがさらに周囲に影響を与えて、世界の謎を明らかにしていきます。

それこそ「煤が晴れるように」、物語は進んでいきます。

しかし、物語とともに「煤」が晴れると、「煤」(シャドー)たるお嬢様は消えてしまうのでは?

アニメ化も予定されており、視聴が楽しみです。

作品にはカラー版もあります。私はカラー版の方を購入しています。

余談ですが、石炭と大英帝国ではこのような本も出ています。