知らない国の物語


『知らない国の物語』(川瀬夏菜、白泉社/花とゆめCOMICS、2002年)
は、「お姫様がメイドになる」作品です。小さな国アルデラ王国のお姫様であるローズマリーは、大国ユリネラの第二王子レイノルのいる王宮にメイドとして入り込みます。縁談の相手となる王子レイノルに結婚を思い止まらせるため、「姫の侍女」として仕え、姫の悪評を伝えることです。

ローズマリーの母国であるアルデラは貧しい国で、城を公開して入場料を得たり、姫のローズマリーが侍女と一緒にパンを売ったり、国王である兄が観光ガイドをしたりという状況でした。兄はこの縁談で経済的な基盤の強化を意図しました。

『高慢と偏見』が恋愛小説の定番であるように、本作品もある種の「偏見」をテーマとしています。自然豊かな国に育ったローズマリーにとって、科学が進んで自然と離れるユリネラは好感を抱けるものではなく、王子レイノルも冷酷との評判を聞いて、最初からこの縁談に反対でした。

ところが、その王子の近くにメイドとして仕えてみると、自分の体調を顧みずに働く王子を心配して世話を焼いたり、ずけずけと物を言う態度で王子とぶつかったりする中で、メイドとしてしっかりと働きます。そして、レイノルが評判と異なる人物だと理解し、次第に好感を抱いていきます。

すると、今度は正体を隠してメイドとして入り込んだことを悔い始め、「騙している」「そもそも国と国の問題になるのでは?」と思い悩み始めます。最終的に落ち着くところに落ち着きますが、この作品が面白いのは、「王族・身分が高い人間」が、様々なシーンでメイドになる展開が何度かあることです。

まず、ローズマリーはメイドとして潜入した後も、今度はレイノル王子の母からのテストとしてメイドを務めました。レイノル王子の婚約に反対する他国の王女がメイドとして様子を見に来たり、ローズマリーも都度、メイド服になったりする機会を持ちました。

「姫」でありながら「メイド」に抵抗がなく、メイドの仕事もこなせてしまう理由は、国が貧しくなんでも自分でしなければならない事情に加えて、幼い時に兄が「メイドの仕事をできるように」仕組んだことでした。身の回りのことができない妹の行動を変えようと、兄は「自分がメイドになる」ことを決めます。面白そうなことであれば、妹が真似をすることを知っていたからです。

何でもできるメイドはすごいかっこいい仕事だぞ
俺はきっとできるけどな
マリーはできるか?
(3巻p.14から引用)

兄の作戦にまんまと乗って、ローズマリーはその後、メイドの仕事を覚えていき、スキルを磨いていきます。王子がメイドの格好をする描写もあり、何気なく、「王子がメイドになる」というユニークな描写を含む作品でもあるのです。

「姫が、メイドになる」作品が2002年の少女漫画にあったことは、特筆すべきものです。