『るくるく』

2003年に刊行された『るくるく』(あさりよしとお、講談社)は、『宇宙家族カールビンソン』など独特の世界観が人気の漫画家・あさりよしとお氏が描いたメイド漫画です。

父と一軒家に住んでいた少年・鈴木六文が目覚めると、台所では悪魔の姫・瑠玖羽が、六文の
為に朝食を作っていました。初めて出会う瑠玖羽に戸惑う六文は、瑠玖羽の部下の悪魔から、隣
の部屋で六文の父親が死んでいることを伝えられ、さらに「家事手伝いをすることでお役に立てれば」と言われます。

急転直下の展開に翻弄されながらも、悪魔と同居する六文の不思議な毎日が始まります。

瑠玖羽がエプロンをつけて、六文のために甲斐甲斐しく食事を作り、弁当を作り、掃除するなど、メイドをする理由は、「世界を、人間を救う」という言葉だけで、謎に包まれたままです。瑠玖羽のメイド姿もミニスカートで「絶対領域」と呼ばれる、スカートとニーハイソックスの間の太ももを見せるスタイルでした。

この作品の魅力は、無口な瑠玖羽が家事をする様子が健気な点です。料理も決してうまいわけではなく、六文のために試行錯誤を繰り返します。人間界の常識もないため、瑠玖羽の眼に映る日常生活も、ひとつひとつが新鮮で輝いて見えているのです。

音楽を聴くと小さく踊り出したり、鼻歌を歌ってアイロンをかけたりする瑠玖羽は、メイドであるか否かにかかわらず、瑠玖羽というキャラクターとして可愛く描かれています。

物語として『るくるく』は「メイドが主人公の家に突然やってくる」作品を踏襲しています。瑠玖羽はプールでスク水、運動会で体操着にブルマ、文化祭のメイド喫茶でメイド喫茶のメイド服を着ます。商店街での買い物、クリスマス、縁日、夏の温泉旅行などの学生必須のイベントも欠かしません。商店街で買い物をしたり、同級生に食べ物の差し入れをしたり、学校に弁当を届けたり、隠していたエロ本を机の上に置いたりする母親のような所業も見どころです。

『るくるく』の設定は、日常生活に狂言回しのように「異なる世界の誰か」が飛び込んでくることで生活が一変する作品としての「メイド」の特徴を捉えたものでもあります。

「悪魔とメイド」という設定が一見奇抜に見えますが、たとえば藤子不二雄氏の作品として『ドラえもん』『忍者ハットリくん』『オバケのQ太郎』『チンプイ!』などでは、タイトルになるキャラクターたちが主人公の生活に入り込んできて、問題を解決したり、引き起こしたりします。

ラブコメ要素で考えれば『うる星やつら』が起点となり、そうした「居候」作品の形式に「メイド」が加わったともいえるでしょう。