メイド喫茶を描いた様々な作品でとりわけユニークなものが、メイド喫茶自体が語り手となった私設図書館『シャッツキステ』による作品です。
秋葉原にある「図書館」をコンセプトとしたメイド店員がいる「私設図書館」『シャッツキステ』を描いた『The Stories of Schatzkiste 私設図書館のメイドたち』(土屋つかさ、宝島社、2013年)と、『私設図書館シャッツキステへようこそ! エリスとゆかいなメイドたち』
(有井エリス、エンターブレイン、2014年)です。
「私設図書館」となる前、「シャッツキステ」は秋葉原のビルの一画、階段を上がったその先にある小さな「屋根裏部屋」として、2006年に開店しました。そのコンセプトは異質で、主の帰りを待つ9人のメイドが住んでいて、そこを「旅人」と呼ばれる客が訪問するという世界観で展開しました。その物語を補うものとして、オーナーのメイド長・有井エリス氏が描く漫画が同人誌の形で展開し、さらに2007年末には秋葉原ブームを伝え続ける大手ニュースサイト・アキバBlogで4コマ漫画が連載されました(アキバBlog アートメイドカフェ「シャッツキステ」のWebマンガ 連載スタート 2007年12月31日)。
「旅人」はメイド喫茶で給仕を受けるだけではなく、物語を読むことでその世界にも導かれたのです(現在は図書館がコンセプトとなり、別の場所で「第2章」として営業中)。
そうした「物語」を「シャッツキステ」が好きな小説家・土屋つかさ氏がノベライズした作品が前者で、有井エリス氏による漫画をコミックス化したのが後者です。
元々メイド喫茶は、前身となるコスプレ喫茶の時代から、作品のイメージを借りて二次元の世界を三次元化する場として機能しました。物語で秋葉原やオタク文化が描かれる際、登場人物がメイド喫茶へ訪問する展開も珍しくなく、メイド喫茶作品に接した人々が現実の秋葉原に赴く「観光地化」も指摘できます。
「観光地化」は2005年の『電車男』で最大化した構図です。以降、自らが物語の語り手となる「メイド喫茶」へと発展した「シャッツキステ」のような存在が生まれていることは、「日本のメイド喫茶表現」の事例となるでしょう。ブログの普及で自らの店舗の語り手となるメイド喫茶が増えていくことも、時代の流れと言えます。
私自身も、実は「シャッツキステ」と縁があります。2010年に『英国メイドの世界』を刊行した際、出版記念イベントを「シャッツキステ」で開催し、ヴィクトリア朝的なメニューの提供、参考文献の展示、そしてメイドについて話す場をいただきました。これもメイド喫茶が持つ「場の許容力」を示すエピソードになるでしょう。
シャッツキステのメイド夜話部・参加感想(2010/11/26)
2020年8月現在、シャッツキステの閉館が予告されています。
2020/08/01記事 「シャッツキステ」店主が14年間の思い語る 名物メイドカフェの「閉館」…コロナ禍と、変わる秋葉原と
同メイド喫茶への思いを綴ったこちらの、たかとらさんによるnoteも。
2020/07/19シャッツキステが閉館する