わたしのお嬢様 株取引のお嬢様編

『わたしのお嬢様 株取引のお嬢様編』(樹るう、辰巳出版、2006年)シリーズは、『エマ』に連なる英国ヴィクトリア朝のクラシックな舞台設定を持ちながら、第3期メイドブームから親和性が高かった「4コマ漫画」を融合させました。

「ヴィクトリアンホームコメディ」と公式サイトでうたう通り(https://www.わたしのお嬢様.jp/)、コメディタッチで描かれます。

物語は、富裕な貿易商マーチ家でナースメイド(子守)を務めるミリアム・ウィルストン(ミリー)と、ミリーが仕える8歳のお嬢様・メリーベルを軸に、屋敷を舞台に様々な当時の文化を交えた日常生活の描かれ、執事やナースメイドやお嬢様の両親など魅力的なキャラクターも多く、ほのぼのした感じのヴィクトリア朝の「ホームコメディ」(著者談)が楽しめます。

しっかりと作り込まれていて、「世界名作劇場(明るい)」とでもいうのでしょうか。

1巻のタイトル『株取引のお嬢様編』は、IT株式バブルがあった2000年代中頃の刊行時期を彷彿とさせつつ、ませたお嬢様メリーベルの行動に由来するものです。父の真似をして経済新聞を読んだり、株に投資したり、ミリーの名前を騙かたって会員制ホラー作品の俱楽部に入ったりと、行動的で勝気で早熟なお嬢様が巻き起こす騒動に、ミリーが巻き込まれていきます。

屋敷には貿易商の父と、執事ジェイムズ、ハウスメイドのスー、コックのポーラ、御者兼馬番のジョーイ、通いの庭師ダン、そして家庭教師で学生のステア先生がいます。家事使用人のバランスも適切で、随所に英国設定を盛り込みつつ、基本的に絵柄がかわいく、コメディが多めに話が進みます。

ミリーはしっかりしているものの、どこか抜けていてスカートを破ってしまったりする「ドジっ娘の特性」も備えています。

ストーリーの軸は、主に「主人一家マーチ家の家族関係」(母クララベルは粉じんアレルギーでロンドン南西の片田舎にある屋敷に別居、兄アーサーは家出)と、ミリーと家庭教師ステアの恋模様、そしてミリー自身の出生の秘密(私生児として母子家庭で育てられていた)など、シリアスな展開も盛り込まれています。

『世界名作劇場』シリーズの作品にある「児童向けの世界」を、メイド要素をたっぷりと詰め込んで描かれたユニークな作品で、大人が読んでも子供が読んでも楽しめることでしょう。

1巻あとがきで著者・樹るう氏は、「世界男子が(作者含む)ひかれてやまないメイドさんと、日本女子が(作者含む)ひかれてやまないヴィクトリアンをコラボ」としつつ、『小公女』や『宝島』、ドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』を参考文献に挙げているのも頷けます(『わたしのお嬢様 株取引のお嬢様編』、p.136)。





Text from 『日本のメイドカルチャー史』