『小煌女』

『小煌女』(海野つなみ、講談社、2010年)は、惑星間交流もある近未来の地球、ロンドンを舞台にした作品です。物語構造はバーネットの児童文学『小公女』をベースとしたSF作品になっています。全5巻なので、一気に読める作品としてもオススメです。

主人公サリーは、上流階級のお嬢様たちが学ぶ寄宿学校・ベネディクト女学校で、住み込みのハウスメイドとして働いています。彼女の立場は、『小公女』でメイドをしていたベッキーに準じます。お嬢様セーラの役に対応するのが、独自の鉱山資源を持つ惑星トアンから留学を名目に亡命した王女ジノンです。女学校では個人付きの使用人が禁じられているため、ジノンの付き添いで来た侍女セニンも、一緒に学生となりました。

誰に対しても分け隔てなく接する王女としてのジノンの振る舞いは立派で、周囲の人間は感化されていきます。サリーも使用人に対してではなく、一個人として接してくるジノンに強い親しみを覚えます。一方、中流階級出身の女生徒ほど階級差を気にしてメイドのサリーに厳しく接するなど、細かな描写が盛り込まれています。

そんなジノンの生活は、『小公女』同様、長く続きません。内乱による核爆発でジノンの母星トアンが消滅し、さらに地球にあったトアン大使館も爆破テロで全滅、ジノンのみが生き残ったのです。ジノンは、自らが王女の影武者だったと明かします。

王女ではなかったことと、地球圏のトアン関係者を一切失ったことでジノンは行き場を失い、女学校でメイドとして働くことになりました。お嬢様だったセーラが父の死で財政基盤を失い、メイドになったように。

このような展開から、サリーとジノンはメイドとして同僚として、また友人として関係を深めていきます。主役級のふたりがメイドを務めるため、作品の視点はメイドの仕事がメインとなります。

メイドの仕事の描き方もユニークで、近未来的な家事の道具があるかと思えば、手仕事も多く残っています。かつての屋敷のコックが料理の材料を私物化した故事にならった描写もあれば、メイドへ立場が変わったジノンとの接し方を変えて距離を置く女生徒も出てくるなど、メイドをめぐる職業と階級と境遇も作品の軸をなします。

この点で、舞台は近未来ですが、「メイド作品」としての要素を十分に満たしています。

メイドではないものの、現代における「家事労働」に取り組んだ作品として、テレビドラマ化もした『逃げるは恥だが役に立つ』が好きな方にもハマると思います。