『Dear Emily…』

「ヨーロッパのある国」が舞台となる『Dear Emily…』(瑚澄遊智、一迅社)も2006年の作品
です。主人公エミリーは孤児院を出て、メイドとしてコーレスタイン邸で働くことになります。

この物語は、エミリーが孤児院を出て、鉄道に乗り、途中途中で出会う人と交流しながら、勤め
先にたどり着くまでの道のりを、丁寧に描写する展開をしています。

メイドとして同僚たちと一緒に働き、日々を過ごすエミリーの日常も、丹念に描かれています。図
らずも秘密を知ることになる屋敷のお嬢様と交流を深めたり、屋敷内の壺を壊す事件を起こしたり、手紙を出しに行って迷子になったり、初めての給金を得たり、故郷の孤児院のシスターに会うために帰郷したりと、新人メイドが遭遇するであろうエピソードが、ちりばめられています。

直前に取り上げた作品が「英国の再現」にこだわったならば、こちらは「使用人とはいえ旧世紀のような身分制はありません」と使用人チーフが語ること(『DearEmily…』1巻、p.46)で、世界観の違いが明示されています。「メイドの物語」というより、「メイドをしている少女の物語」という方が適切かもしれません。エミリーは魅力的に描かれ、柔らかい絵のタッチと相まって、エミリーが生きる世界も含めて、暖かな空気感で優しさにあふれている作品です。

メイド服のスカートの丈は意外と短いです。

2006年の刊行時、表紙はメイド服ではありませんでしたが、2012年に『Dear Emily…~da capo~』として新装版がアスキー・メディアワークスから刊行された際には、1巻表紙がメイド服に変わりました