『メイド刑事』

ライトノベルでは『メイド刑事(デカ)』(早見裕司、ソフトバンククリエイティブ、2006年)が姿を見せました。主人公・若槻葵は警察庁長官・海堂俊昭邸付のメイドで、「国家特種メイド」として海堂邸で働いています。その裏の顔は、警察庁特命刑事(メイド刑事)であり、犯罪と対峙します。

「国家特種メイド」という設定から、捜査のために他者の家庭に入り込んで家事を行う「メイド」の立ち位置を活用する姿は、「戦うメイド」に見られた「潜入」する形態を踏襲します。

ここでもメイドは、自由でした。「冥土の一里塚」にひっかけて「メイドの一里塚」という定番の台詞が繰り返されたり、普段はおしとやかなメイドでありながら、元暴走族の本性を現してクイックルワイパーを武器として快刀乱麻を断つ活躍を見せたりする筋立てや、時に「悪党ども、冥途が待ってるぜ!」と啖呵を切るなど、活劇的要素が盛りだくさんです。

作品には『スケバン刑事』シリーズへのリスペクトがあり、世界観が近くなっています。1巻あとがきによれば、知人から薦められた英国メイド漫画『エマ』の影響を受けたことが執筆のきっかけで、参考文献に第3期で取り上げた『エマ ヴィクトリアンガイド』や、2005年に翻訳された英国使用人資料本『ヴィクトリアン・サーヴァント 階下の世界』が挙げられており(『メイド刑事』1巻、pp.276―280)、家事や忠義に重きが置かれた家事使用人としてのメイド像が描かれました。

『スケバン刑事』を描いた漫画家・和田慎二氏は、後述する『超少女明日香』で、超能力を持つ少女・明日香が家政婦として家に入り込み、事件を解決する作品を描いています。『メイド刑事』はその点でも重なりがあり、和田氏の強い影響を受けているようです。

メイド喫茶に否定的見解を有するメイドの葵が主人公のため、作品内でメイド喫茶へ好意的な言及こそないものの、1巻第2話でメイド喫茶が話題となり、事件の被害者としてメイド店員が出てくるなど、作品の描かれた時期にメイド喫茶は無視できるものではありませんでした。

同作品は2009年に実写ドラマ化されたことでも、メイドブームを代表する事例となりました。

なお、同じメイド設定の刑事作品ではラノベ『シャムロック 灼熱のメイドポリスですぅ〜』(沢上水也、ソフトバンククリエイティブ)が2006年に先に刊行されるなど、「メイド」と「何か」を組み合わせることが、この時期に見られた特徴でした。

Text from 『日本のメイドカルチャー史』