メイドさんエロマンガ統計 by 牧田翠

前段

私(久我真樹)の著書『日本のメイドカルチャー史』で言及できなかったエリアを、専門家の方による考察で視点を増やしていくプロジェクトの一環として、本テキストは知人であり、「エロマンガ」を統計的に分析する牧田翠さんに依頼し、書き下ろしていただきました。

1回目のコラム作品傾向を示した「メイドさん統計 作品数編 」では、作品数のトレンドを可視化し、2回目ではより表現に踏み込んでいます。

※年齢制限がある成年向けコミックの評論であることを踏まえて、お読みください。

以下、牧田翠さんによるテキストです。


はじめに

だいぶ間が空いてしまいましてすいません。牧田翠です。前回の作品数編に引き続き、今回は個別の作品集計です。
ランダムで選出したメイドさん作品150作品について1ページずつ集計を行いました。そのメイドさん作品の「エロマンガ」としての特徴について、弊サークルの調査同人誌「エロマンガ統計90s」や「エロマンガ統計2016」のデータと比較しながら確認していきます。

なお、これらの内容については弊サークルの同人誌「メイドさんエロマンガ統計」でもまとめてありますので、ぜひそちらもご確認ください(そちらでは「マンガのコマ」も引用して、より具体的にイメージできるようになっています)。

→サンプル(Pixiv)
https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=70897212

→委託(COMIC ZIN)
https://shop.comiczin.jp/products/list.php?category_id=2661

1.「エロマンガ」としてのストーリー構造

メイドさんが登場するエロマンガ(美少女コミック)と一般的な作品を比較していきます。基本的なストーリーの構造やキャラの属性などを比較して、その特徴を見ていきます。

■表1

表1では、強姦・和姦の傾向を分析した結果です。強姦の割合は90年代も現代もほとんど変わらず2割となっていて、メイドさん作品でも強姦傾向の作品は2割程度で、そこは大きな差がないと言えます。特徴と言えるとすれば、特に過去の作品では「いつのまにか性行為に入っていて合意があったか不明」という場合も多く、和姦と強姦を合計しても100%にならないのですが、現代の作品やメイドさん作品の場合は、かなり合意の描かれ方が「わかりやすく」描かれていると言えます。
メイドさんが「仕事」として性行為をしている場合も少なくないため、「なぜ性行為をするのか」はわかりやすくなっています。「借金の返済のために仕方なく」という合意が薄い場合(強姦としてカウント)もあれば、「ここで子作りに成功すれば玉の輿」と積極的に性行為をする場合もあるなど、動機は様々ですが、メイドの根幹として「なぜそのご主人様に仕えているのか」は描かなくてはいけない要素であると読み取れます。

■表2

表2は、作品の視点キャラ、いわゆる主人公として、その内面が描かれるキャラクターの性別についてまとめています。こちらはメイドさん作品の特徴が表れていて、メイドさん作品では「女性視点」での物語が一般の作品に比べて多くなっています。
女性視点が多くなるエロマンガのジャンルとしては、二次創作同人誌が挙げられます。二次創作では、キャラの内面も見たい、「竿役」の男の感情よりも、「女性キャラ」の内面を見たいため、女性視点が増えると考えています。
そこから考えると、メイドさん作品で女性視点が多いというのは、「メイドさんというキャラクターの内面も知りたい」という願望から来ているのでしょう。仕える理由は必要な要素であると述べましたが、それをどう思っているのかなど、心理面を描いて、その葛藤や可愛らしさを愛でたいということでしょう。「巨乳」「褐色」などの外見の属性と違って、「メイド」という属性は、その外見情報(制服・エプロン・ホワイトブリム)だけでなく、内面的な部分についてもこだわりの強い属性であると言えます。
そういった意味で、メイド愛好家の方が「服装だけメイドでもキャラがメイドでないと愛せない」という言動をするのも理解できます。

■表3

次にストーリーの構造を追うことで、メイドさん作品の特徴を探ってみます。表3では、物語にどんな要素が出てきたのかを見ています。
一般の作品と比べて、群を抜いて高かった項目は「同居」です。おはようからおやすみまで、生活のお世話をするメイドさんという概念には同居は欠かせないものと言えます。逆に同居していないパターンだと、「お客様に性的な接待をするメイド」や「メイド喫茶の店員と客」というパターンもありますが、「初めてメイドと出会い、まだ同居をしていない(その後の同居は示唆される)」などもあり、同居やそれに類する描かれ方をしている作品の割合はかなり多かったです。
また、物語開始時から性関係を持っている場合も多く見られました。以前から関係を持ち、これからも続いていくという「ずっと続いていく関係性」が含まれていると考えられます。おはようからおやすみまで、去年も、今年も、来年も、変わらずあり続けるのがメイドさんという属性の肝要な部分でしょう。
その関係の対価が恋愛感情や快楽への欲求であったり、または金銭的なものだったりもしますが、「関係の継続」は重要な概念であると言えそうです。
ただし、旧知の関係(5年以上の付き合いがわかる描写がある)はそれほど多くありません。これは「若さ」を求めるためでしょう。例えば5歳のご主人様を世話する20歳メイドさんが、そのまま成長すると18歳ご主人様に対して33歳メイドさんになり、エロマンガ的に「若い」キャラではいられません。そのため、「ご主人様が幼いころから世話をしてきた」という設定は好まれず、若いメイドさんを雇うという形になるのでしょう。
その裏には、「飽きたら捨てて、新しいメイドを雇う」という、使い捨て的な概念が隠れているとも言えます。

■表4

表4では、どちらが性行為に誘ったのかの主導権について見ています。一般エロマンガでは、女性側から誘うというのがやや多いという結果になっていますが、メイドさん作品では、男性側、ご主人様側からの要望で性行為が始まる場合が多いです。
「借金があるのに、言うことを聞かなかったら…」という脅迫的な展開や「ドジっこメイドだけど、頑張ってるところが好きだ」的な恋愛展開など、類型はいくつかありますが、男性側から誘う場合が多くなっています。
とは言ってもメイドさん側から「これもメイドの務めですから♥」と性行為を始める場合も少なくないです。

■表5

キャラクターの年齢を集計した結果が表5になります。
まず最初に述べたいのが、全体的に男女とも、どの年齢層でも一般的な作品に比べて割合が多めになっていることです。
男性側の理由は「モブキャラの不在」にあります。美少女コミックにおいて、男性が「個性のないモブキャラ」としてのみ登場して、年齢が判別できない場合が多いのですが、メイドさん作品の場合は、「ご主人様との関係性」が重要になるため、ご主人様の年齢や立場などがしっかりと設定されている場合がほとんどです。そのため「年齢不詳」になるパターンが少なくなっています。
女性側で一般的な作品に比べて年齢が判別できる理由は「人外が少ない」というのもあります。特に90年代の美少女コミックでは、人外が多く(13%の作品で登場)、対してメイドさん作品では3%と少なくなっており、現実に存在しうるメイドさんがほとんどであり、そういった意味で「年齢不詳」が少ないということもわかってきます。

男性側の年齢を一般的な作品と比較すると、学生世代(16-18、19-22)と40代以上のキャラが多いことがわかります。
学生世代のキャラは「親が雇ったメイドさん」との関係を持ち、40代以上は金持ちキャラとして自分の金で雇う、という形式が見えます。20代から30代くらいの年齢だと「親に頼るのは恥ずかしいけど、自分でメイドを雇える収入がない」という、妙にリアルな設定が見えるのは興味深いところです。
女性側の年齢を見ると、10代後半から20代くらいの「働き始めたばかり」といった年代のキャラクターが多くなっています。対して、15歳以下の少女と、30代以上が少なくなっています。ここから考えると、メイドさんに求められるのは「若さ」と「労働できる能力」であると考えられます。
もちろん、小中学生年齢のメイドさんや、人妻メイドさんも存在しないわけではないのですが、20代の「若い」「労働力」がメイドさん概念の中心になっていることは否めません。
メイドさんとご主人様の間に雇用関係が生じるからか、一般的な美少女コミックに比べても、経済的に生々しい結果になりました。
男性側は年齢の高い世代の収入(親の収入を含む)でメイドさんを雇い、メイドさんは若い身体と労働力を提供して対価を得る……メイドさんからの愛情や性の悦びを描くことで、この生々しさはコーティングされています。しかし、こういった、権力差によって性関係が生じるという搾取的な構造はメイドさん作品の本質的な部分で、目を逸らすべき結果ではないでしょう。

■表6

物語の開始時と終了時で、関係性がどのように変化するのかを集計した結果が表6になります。
美少女コミック全体と比較したときの共通点は「物語を通じて関係が深まり、その後も性関係を持つ」という、性関係を獲得の物語が多いということです。ただの友人・知り合いだったが、なんらかのきっかけでエッチなことをするようになって、その後も続いていくという基本構造は、メイドさん作品でも見られます。
メイドさん作品独自の特徴としては、2点あります。1つは、そもそも最初から性関係が続いている場合が多いということ。もちろん、初めて対面するパターンも少なくない(23%)のですが、半数近くは最初から性関係が続いている状態になっています。
やはりメイドさん概念の基本は「継続」なのでしょう。昔も今も、朝から晩まで、継続してお世話してくれるのが、メイドさんという存在であると考えます。そういった意味で見ていくと、物語の終了時に関係が終了するパターン、別れたり、その場限りの関係だったりするパターンが少ないというのも理解できます。
メイドさん作品のもう一つの特徴は、恋人にならずに非恋人のまま終わる、つまり「メイドと主人」という枠を維持したままに終わる場合が多いということです。もちろん、恋人として見初めていく物語もありますが、半数以上の作品では「メイド」の立場のまま終わります。「変わらずにメイドであり続ける」という部分を求めているとも言えるでしょう。

2.「メイドさん」としての特徴

続いては、メイドさん作品独自の集計結果を載せていきます。制服の形状や、働き方について見ていきます。

■表7

作品内にどんなメイド服が登場していたのかの集計結果を示したのが表7です。
まず、スカートの長さとしてはミニスカ(ひざ上)が多かったですが、ロングも少なくありませんでした。いわゆるクラシック風のメイドさんを好む場合も少なくないのでしょう。また、和メイドやゴスロリ調のようなメイド服は少なく、スタンダードに近いものが多く見られました。美少女コミックにおいての服は「脱ぐ」前提もあるため、メイドさんとしての記号が描かれていればよく、凝ったデザインはそれほど求められていないということでしょう。猫耳や手首や腿に巻くリボンなど、装飾パーツが多い服を「装飾多め」として集計しましたが、そうしたオプションパーツも12%程度でした。胸の谷間が見えているタイプのメイド服があったり、水着+エプロン+ブリムのような「メイド服?」というタイプのものも見られましたが、多数派というほどではなさそうです。
メイドさんの記号として最大勢力だったのは、本当にクラシカルな雰囲気の「キャップ」よりもホワイトブリム、いわゆる「ふりふりのついたカチューシャ」でした。
また同様にメイドさんの象徴であるエプロンですが、胸まで覆うタイプ(上まで)と、腰から下のタイプ(下だけ)は拮抗しており、エプロンのバリエーションの豊富さを見て取ることができます。

■表8

次にメイドさんとご主人様の関係性を見ていきたいと思います。
まずは社会的な上下関係(上司・先輩・兄姉が上の立場)や年齢について、表9-1で確認します。当然のことかもしれませんが、メイドさんとご主人様の関係なら、男性が社会的に上の立場だと考えられるので、圧倒的にそういった場合が多くなっています。
ただし、年齢を確認すると、必ずしも男性が年上というわけではなく、女性が年上のパターンなども3割以上あることがわかります。
表8では雇用形態について集計した結果をまとめています。最も多いのは自分で直接給料を支払っている関係ですが、保護者(ほとんどの場合、親)が給料を払う場合もあり、また本職のメイドさんではなく、メイド喫茶などを含むコスプレである場合も少なくなく、「年上の男性が若いメイドを雇う」というだけではなさそうです。

同年齢 男・年上 女・年上
自分支払い 17% 48% 20%
保護者支払い 25% 10% 68%
メイドコスプレ 35% 20% 15%

赤字…残差分析を行って有意に多い
青字…残差分析を行って有意に少ない

それを確認するのが上記のクロス集計です。簡単に言えば「赤くなっているところは他より割合が高く、青いところは他より割合が少ない」という表になっています。見ていくと、自分で給料支払いしている関係では男性が年上、保護者が支払っていると女性が年上、コスプレだと同年齢、という傾向が見えます。メイドさんに給与を払えるのは年上男性であり、親が雇うメイドさんはお姉さん的なメイドさん、という形になっているのが統計的な結果として見られることは興味深いです。
また、雇用形態によって、内容が変化するかを調べましたが、「給与を払っているから乱暴にする」とか、そういった傾向が統計的な意味では見られませんでした。

■表9

メイドさんの悩みについて見ていきます(表9)。最も多いのは経済的な悩み。お金がない!という悩みからメイドさんの仕事をする(せざるを得ない)パターンが多かったです。親の借金を返すために、金持ちの家に呼ばれて…など、その後、慰み物にされる展開が見えてくる導入として、そういった経済的な悩みを抱えるキャラが少なくなかったです。
家族に不釣り合いな交際を反対される、ドジっ子メイドが仕事に悩むなど、メイドさん側ではそういった悩みが見えましたが、男性キャラ≒ご主人様の悩みとして特徴があったのは性的な悩み事。童貞であることや、早漏であることを悩んでいたら、メイドさんが解消してくれるなどの展開が見られました。

■表10

メイドさんの業務について、表10で確認していきます。細かく分けると、最も多いのは掃除描写、次いで家庭教師や送迎などのその他の家事、料理、という順になっています。
個人的になんとなく料理が最も多いと予想していたのですが、箒の柄を描くだけで掃除している描写ができるのに対して、「美味しそうな料理」は、作画的にも大変だという事情もありそうです。
また、家事下手、皿を割ってしまうメイドさんや料理下手なメイドさんなど、ドジっ子メイドさん、ぽんこつメイドさん、というキャラ付けをされている場合も少なくありませんでした。
これらの家事描写について、注目したいのは最多の掃除でも11%と、大半のメイドさんは、少なくとも作中では家事をしていないということがわかります。ページ数的に家事を行うメイドさんを描けないという事情もあるでしょうが、興味深い結果であると思います。
では美少女コミックのメイドさんは、いったいどんな業務をしているのでしょうか? そうですね、性行為ですね。
メイドさんとの性行為によって、金銭のやり取りが発生していることを明示している作品は少ないのですが、性行為について「これもメイドの務めですから♥」と、ご奉仕するセリフは何度も見ており、美少女コミックに登場するメイドさんの多くが、性行為という「労働」を行っていることがわかります。

3.メイドさん作品の性描写

ここからは「性描写」を見ていきたいと思います。メイドさんが一般的な作品のキャラと比べて、どのように性行為を行っているのかを確認します。

■表11

まずは表11、性行為の動機から見ていきます。
男女キャラともに、トップは快楽動機、次点は恋愛動機です。これは一般的な作品とも変わらない傾向で、キャラクターたちは「気持ちいいことをしたい」「好きな人としたい」という動機で性行為をしていることがわかります。
男女キャラの差に注目すると、男性は女性より快楽動機の割合が高く、男性キャラにとって、性行為=快楽のためというのは、当然のように考えられているようです。つまり、男性キャラにとって苦痛になる性行為という想定しにくく、思い通りの性行為ができているということでもあります。
また、メイドさん作品では特に、男性キャラが相手を攻撃する目的で性行為をする場合が多くなっていることがわかります。相手を「犯す」「汚す」行為で優越感に浸るという動機が、特に「メイド」という部下に対して行う性行為で強くなることがわかります。
それに対して女性キャラは外的動機、つまり「金銭など外的な見返りのため」の性行為を行う動機が目立ちます。これはメイドさん作品に限った話ではなく、女性キャラは「借金返済のため」「出世するため」「立場や家族を守るため」など、様々な理由で身体を提供せざるを得ない場合があります。男性キャラに比べて快楽動機の割合が少ないのは、こうした、苦痛になる性行為が存在しているからなのでしょう。
こうした男女キャラの描かれ方の非対称性、権力関係の歪さは、エロマンガに対しての嫌悪を引き出す部分の一つでしょう。

■表12

表12は、キャラクターの性経験について集計しています。
性経験自体は、そもそも言及されない場合も少なくありません。処女・童貞などの未経験の場合は言及されることが多いですが、当該カップリング外での経験は、言動などから憶測するしかない部分もあります(例えば「童貞なのに上手」というセリフがあった場合はおそらく他で経験があるのだと予想できるなど)。
その前提で確認してみると、他で経験のあるキャラクターが多く、処女・童貞のキャラはそれほど多くないことが伺えます。特にメイドさん作品だと、最初から関係済みの場合が多く、「初めて」を描くよりも、「継続した関係」を描くことを重視していると読み取れます。
また、「他に恋人がいる相手から寝取る/寝取られる」場合や、一般的な美少女コミックで人気の「人妻属性」のキャラがほとんど登場しませんでした。これはメイドさんに対する「支配」の問題なのでしょう。「男性が女性を支配する」という前提で考えた場合、他に恋人がいるメイドさんは、「ご主人様以外の男から支配を受けていて、ある意味でご主人様を裏切っている」と評価されるのでしょう。メイドさんへの「支配」は完全なものでなくてはならないため、他人がメイドさんを「支配する」可能性を無くしているのだと考えられます。
そう考えると、メイドさんに対する欲求には「メイドさんの全てをコントロールしたい」という欲求もあるのでしょう。

では、ページごとの特徴を確認しています。各作品を4つの場面に分け、それぞれの場面ごとにどの程度裸体が登場していたのかで推移を見ています。なお、このページで比較する一般的な作品のデータは2016年の物となります。

■表13

表13では、「脱衣」と「完全脱衣」の推移について見ています。ここでの「脱衣」というのは、下着や乳首や尻、性器など、通常見えてはいけない部分が少しでも見えたら「脱衣」として集計しています。対して「完全脱衣」は、胴体に何も着用していない状態(手袋・靴下・アクセサリー以外を身に着けていない状態)を集計しています。つまり、これを見ると、「どのくらいメイドさんが全裸になったのか」がわかるというわけです。
一般的な作品の女性キャラと比べて、メイドさんの「脱衣」はやや低い程度で、極端に脱がないというわけではありませんが、「完全脱衣」についてはかなり低くなっていて、クライマックスでもメイド服を脱いでいないことがわかります。やはり、メイド服はアイデンティティであり、その記号を捨ててしまってはいけない、ということなのでしょう。たとえ全裸になっても、ホワイトブリムだけは着けている、という作品も多く見られました。

■表14

■表15

表14、15では男女キャラの顔と性器の登場について見ています。
この性器と顔については、一般的な作品とメイドさん作品での違いは少なさそうです。特に、女性側ではほとんど同じと言っていいでしょう。女性キャラの顔を描き続けながら、性器を描いていくというのは、美少女コミックに共通する「お約束」だと言えます。
男性キャラも、メイドさん作品の方が性器の描写割合が低い傾向にありますが、これはメイドさん視点で描くこと(表4-2)など、メイドさんを中心に描くために、男性側の描写が少なくなるのだと考えられます。
男性側の共通点としては「性器と顔の交換」。中盤で男性の顔は描写されなくなり、代わりに男性器の登場が増える傾向を、エロマンガ統計シリーズでは「性器と顔の交換」と呼んでいます。ここには「男性に個性はいらない、性行為できる機能があればいい」という観念があると考えています。
メイドさん作品でも「個性があるメイドさんと、個性あるご主人様との交流をじっくり描く」ものももちろんありますが、やはりどこかテンプレート的な、量産型の「ご主人様」になってしまうという面はあるのでしょう。

■表16

表16は性行為中のセリフを見ています。一般的な作品、特に2016年のものと基本的には近い割合になっています。男女とも、性器の名称を言って「実況する」作品は2~3割程度です。また、男性キャラは相手をほめるor罵倒する、女性キャラは相手をほめるか自分を落とす、という非対称性が見られます。特にメイドさん作品ではその傾向が強く見られます。
こういった罵倒は「言葉攻め」とも言われますが、相手を攻撃するためのセリフが、特にメイドさん作品では強くなる傾向があります。メイドさんより「立場が上である」ことを示すために、メイドさんを性的にも支配していることを確認するために、性的にけなすセリフが多くなるのだと予測できます。メイドさんもそれに応じて、自分の立場の低さを強調するセリフを発するのでしょう。

■表17

表17では、愛撫行為、特に性器に対して行う愛撫について見ています。
女性に対しては「手で行う愛撫(いわゆる手マン)」が多く、男性に対しては「口で行う愛撫(いわゆるフェラチオ)」が多くなる傾向があります。これは一般的な作品とも近いですが、メイドさん作品では、より先鋭化して出現しています。
愛撫を行うのが「手」と「口」では意味合いは変わってきます。能動的に動かせる手での愛撫は、相手に対して優越している場合に多くなる傾向にあります。また、乱暴に扱うときもありえるため、メイドさんに対して「優越・支配」を示すために手での愛撫が多くなるのでしょう。これは器具を使った愛撫の多さからも見ることができます。器具という無機的なものでメイドさんを「犯す」という意味合いが強いと読み取れます。
対して、口での愛撫については、相手をいたわる愛情や、また従順に従うという文脈で行われることが多いです。メイドさんはご主人様に対して「愛情・従属」を示すために口での愛撫を行うのでしょう。愛撫の非対称性も、立場の差を明確にする役割があるのでしょう。

クライマックスシーンにあたる挿入について、細かく見ていきます。

■表18

まず表18では、挿入がどこに行われているのか、男性器を女性器に挿入する性器性交と、男性器を女性アナルに挿入するアナルセックスについての集計です。
8割以上の作品で性器性交が描かれており、それが主流になっています。90年代の作品では、挿入せず終わるというパターンが少なくはなかったのですが、メイドさん作品では、現代の作品と同じように挿入シーンで作品が終わる場合が多いです。
一般的な作品と比較すると、メイドさん作品では、アナルセックスの描かれる割合が多いことがわかります。これは、メイドさんに対して「お仕置き」などの形でアナルセックスするパターンがあったからでしょう。アナルセックスという非日常的な行為をメイドさんにさせることで、メイドさんに対する支配力を確認しているとも考えられます。

■表19

性交の際の挿入体位を表した表19では、基本的に正常位・後背位・騎乗位の順で登場する割合が高くなっていることがわかります。
美少女コミックでは女性キャラの顔や胸などを正面から見せることができる正常位が基本形になっていますが、メイドさん作品では、誤差程度ではありますが、後背位の方が多く登場しています。
後背位は女性キャラが自由に動けない体位であり、男性が主導的に動きやすい体位です。つまり、メイドさんの自由がなく、ご主人様が思い通り動ける体位だと言えます。後背位はメイドさんを支配する、征服する、調教するという体位なのでしょう。
もちろん、ご主人様が動かなくて済むように騎乗位でご奉仕する、という展開もあるのですが、女性が主導して動く体位である騎乗位は登場しにくいようです。ただし、ショタお坊ちゃまと年上メイドさんの関係では、騎乗位が登場する場合が多く見られ、女性の主導権が見られました。
また、座位は登場しにくい傾向があります。抱きしめながら行う座位は、お互いが対等な関係であることを示す場合が多く、メイドさんとご主人様の間柄には相応しくないのでしょう。
メイドさんとの関係は、こうして体位の選択にも表れてくると考えられます。

美少女コミックのクライマックスは、射精や女性の絶頂シーンでしょう。最後に射精し、オチを付けて終わるというのが定番と言えるでしょう。このページではそういった描写について見ていきます。なお、ここでは女性の絶頂について「絶頂」と表記し、男性の絶頂は「射精」と表記していきます。

■表20

どのくらいの作品で射精・絶頂が描かれているのかを集計したのが表20です。性器性交に関わる膣内射精と、女性の挿入絶頂が最も多いのは、一般的な作品とも共通している傾向です。
比較すると、膣内射精や挿入絶頂はやや少なめになっています。古めの作品も混ざっているため、90年代のような「射精・絶頂せずに終わる」作品もあるためです。そんな中で、現代作品よりも多いのは口内射精・愛撫絶頂という、前戯に関わる絶頂描写です。口での愛撫(フェラチオ)が多めであることは表13-2でも示してますが、その結果として、口内射精が多いのでしょう。手での愛撫で女性が絶頂する、と傾向もわかります。
これらの絶頂描写が物語のどの位置で出現するかを見ているのが表15-2です。まず序盤で絶頂描写があり、一度割合が下がるのは最初に性交を描いて「これにはこういった理由が…」などと回想するパターンの物語のせいでしょう。
中盤では愛撫での絶頂を描いています。特に男性が愛撫されて射精することが多い傾向が見えます。また、終盤では挿入による射精・絶頂が多くなり、愛撫での絶頂が少なくなる傾向がわかります。
メイドさん作品も、ラストの射精・絶頂については一般的な作品と大きく変わらず、共通した観念があると言えます。

さて、最後のまとめとして、多くのデータをまとめて俯瞰する「数量化Ⅲ類」という手法で分析した結果が表21です。詳しくは統計の解説書などを見ていただくとして、簡単に言えば「一緒に出てきやすい項目は近くに配置される」というものです(質的データに対する主成分分析とお考えください)。

■表21

左側に女性主導的な作品の特徴が固まり、右側には男性主導があります。また、左に行くほど恋愛や享楽的な合意ある行為が中心で、右に行くほど暴力的という形のグループが作られています。
上下を見ると、上側はメイド服がミニスカ系で、エプロンも胸が出ているタイプの、いわゆる萌え系のメイドさんで、下側はロングスカート+がっちりエプロンのクラシック系メイドさんが登場する作品になっています。また、右上が恋愛系・男性視点で、左下が暴力系・女性視点という傾向も見えます。
ここから、ある程度メイドさんごとの特徴が見えてくる部分もあります。例えば、メイドコスプレをする場合は、萌えメイド系である場合が多いことがわかります。また、萌えメイド系の方が恋愛・男視点に近く、クラシック系の方が、やや暴力に近い傾向が見えます。
また、クラシック系メイドさんの方が年上になる傾向も強く女性主導的に近いですが、萌えメイドさんの方が男性主導的になる傾向がなんとなくあるようです。
もちろん、これらはただの「傾向」であり、例外もあるのですが、メイド服の形状の違いがエロマンガの描写内容にも影響しているという結果は、かなり興味深いものではないでしょうか。共通したメイドさんのイメージが、服の形状にもこめられているのでしょう。

今回の分析を通じて、メイドさんエロマンガが描いているのは「関係の継続性・永続性」と「メイドさんを支配する関係性」であると結論付けます。
メイドさんは、非常に「都合のいい存在」で、経済的に相手の自由を拘束したところから関係が始まるので、非対称的な権力関係が生じる物語が多かったです。そこからスタートして、好きなように支配して性行為をする、その関係を好きなだけ継続できる関係性になっていくというのは、ある意味で身勝手なものでもあります。
そしてそれは、多かれ少なかれ、美少女コミックで描かれている概念でもあります。一般的な作品と比較したときに、そこから「逸脱した」と言えるものはほとんどなく、一般的な作品にもある「継続と支配」を先鋭化した形で提供しているのがメイドさん作品と言えるでしょう。
だからダメだ、と言うつもりはありません。最も大切なのは、「知ること」そして「考え続けること」です。エロ表現をめぐって、検閲・規制・ゾーニングなど、様々な手段で「健全な社会」を作ろうとしている動きがあります。では「健全な性」とはなんなのでしょうか? 誰が「正しい」と決めるのでしょうか? 誰かがエロについての現状を知った上で考え続けなくてはならないと考えています。

ある意味で、美少女コミックに描かれる願望を煮詰めたような、そんな特徴を持ったのがメイドさんが登場する美少女コミックです。ぜひ、一読して、なぜそれが好きなのか、あるいは嫌いになるのかを考えてみてください。そういった挑戦と思考を続けることが、エロを考える上で、そして「メイドさんとは自分にとってどんなものなのか」を知るうえで、最も大事なことであると考えます。