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『小間使の日記』

原作:オクターブ・ミルボー
監督:ルイス・ブニュエル
出演:ジャンヌ・モリー
時代:19〜20世紀・フランス

これはパリ出身のメイドが、田舎のブルジョワの屋敷に働きに来る、というものですが、あまり自分の好みではありませんでした。白黒ですし、女優さんも好きな方ではありません。

このメイドさん、いたって普通です。面白かったのは、「自前の制服」を持っている点でしょうか。その屋敷にはコックのおばさんと、ハウスメイドの女性がひとりいますが、それぞれ普通の格好をしていますので、彼女の「都会性」が鮮やかに引き立ちます。

屋敷といっても、他の使用人は力仕事を担う雑役夫ぐらいで、執事やハウスキーパーもいませんし、年代とフランスというお国柄のせいか、女主人は普通に使用人と会話して、厨房にも顔を出していた点を考えると、「カントリーハウス」での暮らしというより、ヴィクトリア朝での中産階級のそれに近い印象です。(ヴィクトリア朝でも、一般にコックやハウスキーパーに任せきりで、厨房に入ると『軽蔑』されます)

さらにこのメイドさん、年齢が30代と思われ(『8人の女たち』のエマニュエル・ベアールは実際の年齢が30代後半でしたが、間抜けにも自分には、十代後半から二十代前半にしか見えませんでした…)、強いです。

職務に関することでは女主人の命令に従い、また反抗的な部分も見せず、精勤しています。とはいえ香水をつけるなと言われてもつけていたり(この辺も都会性?)、譲るべきところは譲るけど、こうと思ったものは梃子でも動かない感じです。

主人に度々声を掛けられても拒絶しますし、強面で荒々しい雑役夫と何度も衝突しますし、屋敷に入り込んできて「かたつむり」「木の実」を売る田舎の少女にも優しく、彼女に食事を上げたり、寝てしまったら自分のベッドに寝かしつけたり、親切です。

なぜこの映画を知ったかといえば、『8人の女たち』でべアール演じるメイドさんのモデルとしてあげられていたからです。その「モデル」とは、「ハイヒール」を履くというものでした。この映画の屋敷の主人の父親は靴フェチで、彼女を部屋に呼びつけたとき、嬉々として、部屋の戸棚を開け、女性の靴を取り出します。

このメイドさんに自分の所有する靴を履かせて、歩いてもらって、うっとりしながら喜びます。そのときの靴が、その『8人の女たち』のハイヒールにつながった模様です。『小間使いの日記』では、あまり綺麗だと思えなかったのが…

映画そのものは、このメイドさんが雑役夫とぶつかり、さらに主人のモーションも激しく、その上主人の父親が靴を抱いたまま怪死する事件まで起こり(密室)、彼女は屋敷を出て行こうと決め、駅まで向かうのですが、家に出入りしていた少女が殺されたのを知り、犯人探しに乗り出します。

この後の展開は、個人的に納得できない終わり方でしたが、そういうものなのでしょう。これ以前にも一度映画化されたようで、人気のある作品ではあるようです。やはり女優や白黒、という部分で、あまり好きになれませんでしたが、べアールの「奔放なイメージ」とは違った、「強い自立したメイドさん像」として、今までに無いものと思います。



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