[参考資料]エマ ヴィクトリアンガイド

ヴィクトリア朝のメイドと紳士の恋愛を描いたコミックス『エマ』の副読本です。職業としてのメイドが最盛期を迎えたヴィクトリア朝について様々な資料本が出ていますが、基本的にその領域に関心を持つ人々に向けられたもので、イギリスの歴を理解していないと分かりにくいものもあります。

その点、本書は「一冊で分かりやすく、ヴィクトリア朝」を扱ったもので、本書をきっかけにヴィクトリア朝の文化に興味を持つ方が増えたのではないかと思えるほど、網羅的です。メイドが生きた時代を文化・風習・街並み・衣装まで含めて広範に扱い、森薫先生のイラストが本書の魅力を高めます。

本書を読むことで『エマ』の楽しみは数倍になるでしょうし、それ以外の同時代を扱った作品を楽しむ支えにもなります。コンパクト性、値段、分かりやすさ、すべてにおいて秀逸です。2003年に本書が刊行されたとき、正直、家事使用人を研究する立場としてショックを受けました。

しかし、自分が描きたい方向性とはまったく違っていたので、その点で研究を続ける意欲が湧きましたし、「この本に負けないものを作る」というのが、自分にとって一時期のモチベーションとなりました。

この当時の段階では、『ヴィクトリアンガイド』で使われている情報の参考文献が理解できるレベルだったので、取材や考察を深めていった後の『エマ』やアニメなどで再現された世界とはまた違っています。その点で、情報の密度とオリジナリティは後に出された『エマ アニメーションガイド』の方が高くなっています。

このジャンルは時間との戦いというか、ゼロから誰もが勉強を始めているので、時間をかけて資料への考察を深めていけるかが重要です。私はメイドの資料を作る立場ですが、2003年と今とではまったくレベルが違います。同じように、森薫先生や筆者の村上リコさんは、本書を見て感じているかもしれませんが、あの時点で作られた情報としては間違いなく日本最高で、今も格好の導入書としてその価値は色あせません。

何よりも、この本が評価されるべきは、「メイドファンにヴィクトリア朝を紹介した」ことだけではなく、その逆に、「ヴィクトリア朝を好きな人にメイドの魅力を紹介した」ことだと思います。その点で、『エマヴィクトリアンガイド』がメイドジャンルに成した功績は、大きいと思います。

この本で描かれる世界をもっと知りたいならば、図説ヴィクトリア朝百貨事典と、ヴィクトリアン・サーヴァントが参考になります。

また、資料系の同人を作られ、同時代に本書を読んだサークル・震空館様の『エマ ヴィクトリアンガイド』雑感も、当時の本書の評価を知る上で、参考になるでしょう。