[小説/コミックス]Under the Rose(アンダー・ザ・ローズ)8巻

Under the Rose (8) 春の賛歌 (バーズコミックス デラックス)

著者/訳者:船戸 明里

出版社:幻冬舎コミックス( 2013-12-24 )

コミック ( 270 ページ )



2013年12月に刊行された最新8巻の感想を、なぜ1年後に書いているかと言うと、この物語の連ねてきたストーリーと伏線とキャラクター描写がエネルギーにあふれているので、何度も読み返すのが怖く、なかなかそこに向かい合うだけのエネルギーを取れなかったためです。この作品にあって、ネタバレは物語を楽しむ機会を著しく喪失させるため、作者の船戸明里さんもTwitter上で、wikiperiaにネタバレを書かないで欲しいと記しています。

http://ja.wikipedia.org/wiki/Under_the_Rose

私個人も、公開されているブログ環境で、ネタバレを回避しつつ『Under ther Rose』の感想を刊行ごとに書くことを試みていますが、なかなかハードルが高く、常に抽象的な表現に終始します。ですので、今回の感想も8巻の感想という個別のものではなく、8巻を読むことによって織り直される『Under the Rose』という完結へ向かう「ひとつの物語」のこれまでの感想という表現になるでしょう。そのため、過去の感想からの繰り返しもありますので、その点はご了承ください。

『Under the Rose』と言う作品は、とても素晴らしい作品です。私は「ヴィクトリア朝」「屋敷」「メイド」といった要素が大好きな人間なので、そうした軸から初めてこの作品と接しましたが、この作品は相当な部分でその当時にあったであろう価値観と、作者が切り出すキャラクター像、その関係性にまず驚かされます。様々な点で好意が好意で報われるようなことはなかなか少なく、感情が入り交じり、すれ違いが更なる摩擦を生み、その軋轢や葛藤のエネルギーに引きこまれそうな印象も覚えます。

ただ、物語を1冊ずつ読み進めていくと、過去に描かれた描写への解釈が一面的なものでしかなく、その背後にある動機やキャラクターの背景や大切にする価値観など別の側面が見えてきて、物語そのものが意味を変えていきます。登場人物も、過去に描かれたシーンも、まったく同じままですが、読み進めることによって情報が増え、読者の方が視点を塗り替えられていきます。最新刊を読んでから、過去の巻を読み直すと、別の視点でより深く楽しむことが出来ます。

屋敷・家族という構造もまた、突き刺さる設定です。基本的にはどちらも部外者から見えれば「よく分からない世界」「密室」であるとも考えられます。そこに、部外者の視点、つまりは読者と同じ視点を持つ「主人公」が登場し、主人公なりの価値観で行動し、登場人物たちとぶつかりあい、翻弄され、目の前にいる人物たちを「理解」しようとして解釈を繰り返し、正解のこともあれば裏切られることもあります。この「他人を理解したい」「自分の備える倫理観で説得したい」という欲求や衝動の描かれ方も巧みではあります。

『Under the Rose』にあって様々に作品内にちりばめられている「謎」が解き明かされていくことも物語的なカタルシスではありますが、それらが家族・屋敷という人間関係の中で完結する形で繰り広げられており、誰かを見るまなざしが何かの情報で別のものへと置き換わっていく体験を私たちは日々経験している中で、非常に「人間」に根ざした多面的な物語を、キャラクター造形に夢中にさせてくれるでしょう。

特に物語のある転換点では、劇的な視点の展開が生じます。しかし、そうした視点の展開と、これから描かれるであろう「未来の巻」で、今読んでいる物語の面白さや解釈がいつひっくり返されるかも分からない、そんな「疑い」(この幸せや安定はいつまでも続かないのではないか?)、あるいは「希望」(この描写や展開はひどいが、心地よい展開が待っているのではないのか?)の揺れ動く心情を読者に抱かせる稀有で緻密な物語構造は、特筆すべきものです。

没頭し、翻弄される楽しみを、一緒にいかがでしょうか?

英国貴族と屋敷の物語『ダウントン・アビー』が世界的にヒットするならば、この作品はそこに匹敵するぐらいの物語性や展開を秘めていると感じています。

……1つの作品の感想を毎年更新する感じの取り組みも奇妙なことかもしれませんが、次巻の感想はどのようなものになるでしょうか? 今の流れでは6巻の感想『Under the Rose』6巻感想~「変化」していく作品の価値と、登場人物と、読者)(2009/05/24)の延長にありますが。

以下、伏せ字で。

公開情報である8巻の帯には”虚像でも構わない ついに明かされる伯爵家の「真実」。もう誰も目を背けることはできない。”と記されていますが、これもネタバレになるかもしれないと気を遣うべき作品です。

「どのシーンが素晴らしい」という会話を、あんだろ読者の方としたい昨今です。