[参考資料]女中がいた昭和

日本における「大正~昭和」への関心の高まり

『女中がいた昭和』を読みました。編者の小泉和子さんは昭和生活研究のスペシャリストで、また英国マニアお馴染みの『イギリス手づくりの生活史』を監修されています。過去、私のブログではこのエントリで小泉さんの著書を取り上げました。

『コクリコ坂から』と家事使用人からの脱却を迎えた日本、ジブリ作品の家事描写についての雑感(2011/09/14)

大正~昭和の朝の連ドラにもブームの一端は感じられます。NHK朝の連続ドラマ『おひさま』と女学生と女中奉公について(2011/04/13)、『小さいおうち』~昭和前期の「メイド」が主役の直木賞受賞作(2010/12/20)、そして最近では『カーネーション』も話題になっています。

日本の領域は、正直なところ、自分で研究するのは無理だと思っていたので、同書の刊行は嬉しかったです。去年は近代日本の女中(メイド)事情に関する資料一覧 を公開したにとどまりました。元々、この領域は『女中イメージの文化史』が最も完成度が高いものでしたが、その違いはどこにあるか、と気になりました。

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女中イメージの家庭文化史(当ブログでの感想)

『女中がいた昭和』感想

同書は、素晴らしい完成度でした。小泉和子さんは編集的立場でかかわり、その中で各領域の専門家が書いています。特に、建築、生活史、工学などの専門家が多いように思え、本の中心が「文学的ではない」こともアプローチとして幅広さや広がりを感じました。

このレベルの日本の女中、それも家事や暮らしを描いた本は後続を許さないレベルです。特に女中がいた建物の間取り図をしっかり載せたり、資料が少ない占領軍家庭、在日朝鮮人の「女中」まで解説した本は類がありません。日本の「女中の歴史」についての本は、この本が終わらせたと思います。それほど、密度、情報の幅広さ、図版の多さが圧倒的です。「女中部屋」に1章割いているなんて、分かっていすぎです。

英国における『ヴィクトリアン・サーヴァント』に比肩する本が、日本にも生まれたといえるでしょう。『女中イメージの文化史』はだとすると、ウッドハウスが絶賛した『What the Butler Saw』的な立ち位置かもしれません。久しぶりに、資料本を読んで、その密度に驚愕しました。

『女中イメージの文化史』あとがきで著者の清水美知子さんは同書で描ききれなかった「生活・個人軸の本、研究」を願っていたと思いますので、それを補い、包み込むような流れのようにも見えます。『女中がいた昭和』あとがきでは、清水さんへの謝辞がある。想いが繋がり、広がった幸せな事例ではないでしょうか。

参考文献の幅広さが圧倒的で、女中を描くには女中の本だけで足りず、自分ひとりだけで扱いえない領域へ、いかに到達するか、その問いか超えた一冊で、専門家同士の勉強会から生まれたというこの本は、私にとって憧れで、とても参考になりました。

扱いえるテーマが「昭和」なので、それ以前については引き続き、研究の余地はあるかと思います。個人的に知りたかった華族の家政や、駐日の欧米人家庭のメイド事情も言及はないように見えるので、その辺りはきっと後に託されているものなのかなぁとも。ただ、この本を読まずに、「女中」を語ることはできない、間違いなくそう思える一冊です。