[参考資料]不機嫌なメアリー・ポピンズ


『階級にとりつかれた人びと―英国ミドル・クラスの生活と意見』と同じ作者の新井潤美先生(久我の母校の先生)によるもので、視点はほぼ同じです。

『階級にとりつかれた人びと』との相違では、「よりわかりやすい」ことを目的にし、容易に見られる・入手できる「映画」「小説」のひとつひとつをタイトルに、階級差を意識させる部分の解説を深めています。

前回はある事象について関連するものとして参考文献や事例の紹介がありましたが、今回は作品軸なので、その作品を見ることによって、そこに表れる階級意識がわかりやすくなります。本当、あちこちに当たり前のようにちりばめられています。

特に面白かったのは、「使用人も役割を演じる」という箇所です。今回の本はイギリス的階級の象徴としての「使用人」を中心にしており、タイトルの『メアリー・ポピンズ』にも、それが出ています。

また、言葉・発音にどれだけ階級を示す要素があり、それが映画化や翻訳や翻案でどれだけ原作の要素を損なうのか、という部分についても面白いです。『英国カントリーハウス物語』には、20世紀のあるイギリス貴族が財産を失い、使用人として働くことになるものの、発音が立派過ぎて「解雇される」などというエピソードもあるぐらいです。

こうした階級による発音は英語圏の映画で巧みに織り込まれています。以前、『ROME』というドラマを見ましたが、私の知人曰く、支配階級の皇帝の血族は上流階級の英語を話しており、兵士は労働者階級の英語を話している、というのです。

本書で紹介されていた作品では、デュ・モーリア原作、ヒッチコックの映画『レベッカ』が「完璧に見える前妻と、ハウスキーパーと戦う後妻」という構図で紹介されており、面白そうなので買いました。これも後日、ご紹介しようかと。


※このテキストは『不機嫌なメアリー・ポピンズ』(2005/07/01)から再構成しています。