「ニコニコ動画」におけるメイド表現調査 by myrmecoleon

前段

私(久我真樹)の著書『日本のメイドカルチャー史』で言及できなかったエリアを、専門家の方による考察で視点を増やしていくプロジェクトの一環として、本テキストは知人であるmyrmecoleonさんに依頼し、書き下ろしていただきました。

myrmecoleonさんはニコニコ動画のデータ分析クラスタとして活躍されており、同人でも様々なコンテンツが集まるプラットフォームの解説などもされています。ASCII.jpでmyrmecoleonの「グラフで見るニコニコ動画」/myrmecoleonの「グラフで見るニコニコ動画 第2期」を連載しています。

以下、myrmecoleonさんによるテキストです。


はじめに

はじめまして。myrmecoleonと申します。

ニコニコ動画を中心に,国内外のUGC文化(同人誌やpixivなど)に関心を持って私的に調査研究を行い発表しています。

今回は久我さんよりニコニコ動画周辺のメイドに関する表現について調べて欲しいとの依頼がありましたので,「ニコニコ大百科」を参考にして「ニコニコ動画」における「メイド」の扱われ方について調査してみました。

2006年12月に開始した「ニコニコ動画」はその後VOCALOIDや歌ってみたブームを経て日本を代表するネット文化の拠点のひとつとなりました。2005年から2006年にかけて世間の話題となった「メイド」は当時いわゆるオタク文化と関連付けられることが多かったですが,ニコニコ動画もまたオタク文化と関わりが深いサービスです。ニコニコ動画の中で「メイド」がどのように扱われてきたかは,この10年におけるネット・オタク文化の中での「メイド」の動きを考える上で参考となるかと思います。

ただしニコニコ動画のジャンルは幅広く,ニコニコ生放送・ニコニコ静画といった関連サービスも含めて扱われる領域は多様です。今回は関連サービスの中でも「ニコニコ大百科」を足掛かりとして,特にニコニコ動画での「メイド」と関連深いトピックの抽出とその推移を調べてみました。

1.「ニコニコ動画」「ニコニコ大百科」とは

「ニコニコ動画」(以下「ニコ動」と省略します)は株式会社ドワンゴの運営する動画投稿サイト。2006年にネット上の動画にコメントを付けられるサービスとして開始,2007年3月に動画投稿サイトとして再始動し現在に至ります。動画の映像に合わせてコメントを投稿できるのが特徴。100万人以上の作者により1500万以上の動画が投稿され,月900万人が閲覧しています(拙著『ニコニコ動画統計データハンドブック2018』(2017.12)より)。

ゲームのプレイ動画や歌や踊り,動物や政治や料理の動画,オリジナルの楽曲や3DCG映像,MAD動画など多様な動画が投稿され,公式にテレビアニメなども配信されています。近年は有料会員数などが減少し停滞の声もありますが,ニコ動はこの10年の日本のネット文化において非常に大きな存在と言えます。

「ニコニコ大百科」(以下ニコ百)はニコニコユーザーが作成・編集できる辞書・辞典サイト。2008年5月よりニコ動らの関連サービスとして未来検索ブラジルが開発・運営し,現在はカドカワ傘下の大百科ニュース社が運営しています。作成される記事はニコ動関連に限りませんが,関連サービスということもあり多くの記事はニコ動に関係しています。

ニコニコ動画:GINZA
http://www.nicovideo.jp/video_top

ニコニコ大百科
http://dic.nicovideo.jp/

2.ニコニコ大百科のメイド記事

ニコ動の動画ジャンルは多様であり,また「メイド」に関連する動画が必ず説明文やタグにメイドを記載しているわけではありません。そのため今回はまずニコ百より「メイド」について言及のある記事を抽出し,その中でもニコ動での投稿数が多いもの,メイドとの関連が深いものにどういったものがあるかを確認して前調査とします。

具体的にはニコ百の単語・生放送記事の本文全文検索より“メイド”を含む記事のリストを取得。該当記事の本文テキストを収集し,テキスト分析により「メイド」について言及している記事を抽出しました。テキスト分析には立命館大学の樋口耕一准教授の開発・配布しているフリーのテキスト分析ソフト「KH Coder」を使用しています。

調査した2018年3月20日時点で全文検索で4134件の記事がヒット。取得できなかった分を除く4083件についてテキスト分析を行い,3033件で「メイド」が言及されていました。

記事が作成された年でみると2009年がもっとも多く,年々減っていますが,この傾向はニコ百全体の記事数と共通のため,ここは比率でみるのが妥当です。国立情報学研究所が提供している「ニコニコデータセット」よりニコ百のデータセット(2014年2月時点までのものが研究者向けに配布されている)を利用し,2008年より2013年の記事数を参照して比率をみると,ニコ百各年全体の1.2%前後の記事で「メイド」が言及されていることが分かります。

■図1.ニコニコ大百科中のメイド記事数と比率
グラフ ニコニコ大百科中のメイド記事数と比率
※本研究では、国立情報学研究所のダウンロードサービスにより株式会社大百科ニュース社から提供を受けた「ニコニコ大百科データ」を利用した。

ニコニコデータセット
https://www.nii.ac.jp/dsc/idr/nico/nico.html

記事の傾向としては,メイド関連のキャラクター,それが出てくるアニメ・ゲーム・小説などの作品,メイドに関したエピソードのある生主や歌い手などの投稿者が多いです。特に東方Project関連が非常に目立ちます。

3.メイド関連記事のタグ投稿数

ニコ百の記事はニコ動でもタグとしてよく使われています。メイドに言及しているうち,比較的メイドと関係深い記事のタグについて動画投稿数を調べると,特に投稿数が多かったのは「表1」の通りでした(2018年4月23日時点。以下同じ)。

■表1. メイド関連記事のタグ投稿数

傾向としては以下が挙げられます。

3-1・「メイド」「メイド服」

「メイド」「メイド服」といったメイドそのものを意味するタグもニコ動ではよく使われています。

後述のようなメイド関連の動画に網羅的についているわけではありませんが,毎年数百件の動画が投稿されています。「メイド」タグがついてる動画はさまざまですが,その中ではR-18動画が多く,メイドコスプレのエロ動画の転載などが目立ちます。

また「メイド服」タグの動画は「踊ってみた」動画が大半,「メイド」タグでも「踊ってみた」動画は多数投稿されており,ニコ動での「踊ってみた」で多数のメイド動画が投稿されていることが分かります。これに関しては後述します。

■図2.年別投稿タグ動画数「メイド」「メイド服」「メイド喫茶」
グラフ 年別投稿タグ動画数「メイド」「メイド服」「メイド喫茶」

3-2・東方Project

東方Projectシリーズ(以下「東方」)はニコ動で人気の高い作品ですが,メイドやメイド服のキャラクターも何名かいます。

特に「十六夜咲夜」は,「東方」を代表する人気キャラクターのひとりであり,メイドであり,ニコ動でのメイド関連のタグとしては最もよく登場します。ニコ動で最も有名なメイドキャラと言って過言ではないでしょう。

動画投稿はニコ動で「東方」の動画が増加した2008年頃から増えており,近年でも投稿が増えてきています。特にMMD動画の投稿が多い傾向。主人の「レミリア・スカーレット」,紅魔館門番の「紅美鈴」と合わせて登場することが高いようです。

「十六夜咲夜」はWindows版第1作「東方紅魔郷」(2002年頒布)のSTAGE5ボスであり,次作「東方妖々夢」以降では自機キャラとしてもよく登場する人気キャラクター。現在に続く東方人気は「東方紅魔郷」の頃から拡大したこともあり,「十六夜咲夜」ら紅魔館メンバーはニコ動での東方二次創作での登場が多く,彼女自身がメインとならない場合もよく出演しています。「東方」の二次創作はニコ動ではさまざまなところに浸透しており,後述するマイクラ動画シリーズなどでも「十六夜咲夜」や紅魔館メイドの登場がよく見られます。

「十六夜咲夜」の関連楽曲である「月時計」「メイドと血の懐中時計」も人気ある楽曲。彼女が所属する「紅魔館」なども頻出するタグです。

「東方」でのメイドキャラ登場は早く,1997年12月に頒布された「東方夢時空」ではエンディングでメイドロボの「る~こと」がすでに出ています。翌1998年8月に頒布された「東方幻想郷」のEXTRA STAGEボスの双子の妹メイドとして「夢月」(ただしメイド服を着ているだけの「うそっこメイドさん」とされる),同年12月頒布の「東方怪綺談」にもSTAGE5ボスとして魔界メイドの「夢子」が登場(短剣の弾幕を撃ち,「十六夜咲夜」の源流と言われる)。

当時は「第1期メイドブーム」(久我真樹『日本のメイドカルチャー史』より)にあたり,1997年から1998年当時の同人ゲームコミュニティにおけるメイドキャラの浸透が伺えます。また作者のZUN氏も制作に参加している関連作品「秋霜玉」(2000年頒布)ら「西方Project」シリーズは「メイドさん弾幕シューティング」とされ,シリーズ通じての主役自機「VIVIT」はメイドロボです。

「十六夜咲夜」ら「東方」のメイドキャラは,90年代の第1期メイドブームからの流れと言えます。またいずれもシューティングゲームのボスまたは自機として登場した「戦うメイド」である点も留意すべきでしょう。

■図3.年別投稿タグ動画数 東方関連
グラフ 年別投稿タグ動画数 東方関連

3-3・アイドルマスター・ラブライブ!

アイドルマスターもニコ動で初期から人気の高い作品です。当初の人気を生んだ2007年のXbox 360版「アイドルマスター」では,アイドルの選べる衣装として「メルヘンメイド」が2007年11月よりDLCとして追加され,アイドルがメイド服で踊る動画がよく投稿されていました。

その後「アイドルマスター シンデレラガールズ」で2012年よりメイド喫茶店員の前歴を持つアイドル「安部菜々」が登場。2013年頃から投稿が増え,2016年から2017年はMAD人気で急増しました。こちらもニコ動で有名なメイドキャラのひとりです。

2014年開始の「アイドルマスターSideM」では女装メイドの男性アイドル「水嶋咲」も登場しています。ほか「アイドルマスター シンデレラガールズ」などでゲームの限定レアカードの衣装としてしばしばメイドのモチーフが採用されていました。

アイドルとメイドの関係は『日本のメイドカルチャー史』でも紹介されているとおり顕著で,メイド喫茶店員がアイドル的人気を持ったり,ライブステージに立ったりする例は少なくありません。「メルヘンメイド」はあくまでコスプレの文脈ですが,アイドルマスターの2010年代以降の展開ではアイドルを描く上でメイド喫茶店員のモチーフが人気タイトルに取り入れられている点は注目すべきでしょう。

同様にメイド喫茶店員としての文脈を持つアニメ・ゲームのアイドルキャラとしては「ミナリンスキー」としてメイド店員をしていたアニメ「ラブライブ!」の「南ことり」も挙げられます。こうしたアイドル=メイド的な文脈は,メイド喫茶等の第4期メイドブームの流れをゲーム・アニメが取り入れた例として挙げられます。

■図4.年別投稿タグ動画数アイドルマスター・ラブライブ!関連
グラフ 年別投稿タグ動画数アイドルマスター・ラブライブ!関連

3-4・VOCALOID

東方・アイマスと並び御三家と称されたVOCALOIDですが,意外ですがあまりメイドに関連したトピックはありません。

ボカロ曲としてはかたほとりPの「メイドの星からS・O・S」がメイド関連で比較的人気のある曲です。VOCALOID関連のキャラクターの中ではUTAUで人気の高い「桃音モモ」がメイド服風のコスチューム,「阿久女イク」がメイド・アンドロイドという設定です。その他ボカロキャラのメイド風MMDモデルなどは数点出ているようです。

【新番組】メイドの星からS・O・S【鏡音リン】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9979305

3-5・アニメ作品・キャラクター

ニコ動が登場した2000年代以降はしばしばメイドを題材とした作品,メイドキャラの登場する作品などが放送されています。その中ではニコ動で人気の高いタイトルもあり話題となりました。

2007年から2008年頃に人気のあったメイドキャラ・作品としては「涼宮ハルヒの憂鬱」の「朝比奈みくる」,「BLACK RAGOON」の「ロベルタ」,2008年にアニメ化した「仮面のメイドガイ」が挙げられます。また当時人気の高かったアニメの「ひぐらしのなく頃に」「らき☆すた」はいずれも作中でメイド服のコスプレやメイド喫茶(「らき☆すた」は正確にはコスプレ喫茶)が登場していた作品でした。

2009年にはアニメ「けいおん!」がブレイクしましたが,この作中で秋山澪がメイド服を着るシーン(妄想)を切り取ったタグ「萌え萌えキュン(末尾はハート)」が大ヒット。MADなどが多数投稿されました。

2010年には「会長はメイド様!」「それでも町は廻っている」がアニメ化。2011年から2012年は大きな動きは少ないですが,2013年から2014年には前述の「南ことり」の登場する「ラブライブ!」が放送,2015年には「安部菜々」の登場する「アイドルマスター シンデレラガールズ」が放送されそれぞれ非常に人気が高かったです。

2016年には「少年メイド」が放送の他,アニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」でメイドの「レム」が大変人気となりました(「小説家になろう」文脈でのメイドがアニメに普及してきた点としても注目されます)。また2017年はメイドをテーマにしたコメディ「小林さんちのメイドラゴン」がニコ動で非常に人気が高かったです。

ほか主要な要素ではないものの,しばしばメイドが登場する「Fate」シリーズ(特にスピンアウトの「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」はメインキャラのひとり「美遊・エーデルフェルト」がメイドをしています),メイド喫茶店員「フェイリス・ニャンニャン」の登場する「STEINS;GATE」などはヒットしましたし,「「けいおん!」のようにスポット的にメイドコスプレが登場する作品,「灼眼のシャナ」の「ヴィルヘルミナ・カルメル」や「舞-HiME」の「姫野二三」,「咲-Saki-」の「国広一」,「僕は友達が少ない」の「楠幸村」,「三者三葉」の「薗部篠」,「ひなこのーと」の「柊真雪」のようにメイドキャラがいるアニメ作品も2000年代以降は珍しくなくなりました。

ニコ動で劇的に人気となった例としては「萌え萌えキュン♡」・Re:ゼロのレム・「小林さんちのメイドラゴン」など数えるほどですが,メイド要素はテレビアニメでもすでにありふれたものとなっています。

■図5.  年別投稿タグ動画数 アニメ関連グラフ 年別投稿タグ動画数 アニメ関連
* 「萌え萌えキュン(末尾はハート)」はのちに動物動画の関連タグとしても使われているため,グラフでは動物タグのついてない動画の投稿数を使用。

3-6・ゲーム関連

ゲーム関連で非常に投稿数が多いメイドキャラ名のタグとしてはアーケードのオンライン対戦型アクションシューティング「ガンスリンガーストラトス」(2012年より稼働)の「竜胆しづね」が挙げられます。暗殺者一族の末裔の少女でメイド兼ボディーガードの「戦うメイド」。「ガンスリンガーストラトス」の操作キャラの一つであり,同作品の中では動画がもっとも多いキャラです。個々の再生数は高くありませんがプレイ動画によくタグが使用されている関係で投稿が多いです。

またニコ動での意外なメイド人気としては「Minecraft」があります。Minecraft動画はニコ動では2010年頃からよく投稿されていますが,2011年頃から「littleMaidMob」というMODが使われるようになりました。このMODではMinecraft上にクリーチャーの一つとしてメイドさんを登場させることができ,メイドさんを雇って戦闘や各種の用事をしてもらえます。メイドさんのいる生活をMinecraftで送れることから大変人気となりました。見た目のテクスチャや声の拡張MODも多数配布され,好きなキャラ風のメイドさんを雇うことも可能。Minecraft動画では連作のストーリーものなどもありますが,「littleMaidMob」の人気もあってかメイドが登場するシリーズも多いようです。

2000年代以降のゲームでは作中にメイドやメイド服を着るキャラクターが出る作品はアニメ以上に珍しくなく,中にはニコ動で投稿の多いタイトルもあります。ニコ動で人気の高い作品のキャラで言うと,「艦隊これくしょん」の「漣」(メイド喫茶風の口癖のほか,メイド服のイベント立ち絵あり),前述の「STEINS;GATE」の「フェイリス・ニャンニャン」,「フラワーナイトガール」の「スイレン」ほかが挙げられます。作品としては90年代からの流れもありエロゲーで目立ちます。

その他個々の投稿は多くないものの,ギャルゲーなどでメイドをテーマにした作品は多いです。たとえばメイド喫茶を経営する「パルフェ ~ショコラ second brew~」(ニコ動でのタグは「パルフェ」),メイドキャラを好みにカスタマイズできる「カスタムメイド3D」,主人公がメイドとしてお嬢様学校に入学するNavelの「月に寄りそう乙女の作法」は比較的人気のあった作品でした。

ほかではメイド好きが言われるゲーム実況投稿者などもいました(「ゆ~ぴ~」など)。

■図6. 年別投稿タグ動画数 ゲーム関連グラフ 年別投稿タグ動画数 ゲーム関連

ほかニコ生の配信者(生主)関連の記事なども目立ちましたが,動画投稿が多くないこともあり今後の課題としたいと思います。

傾向としては,メイド服を着る女性生主,メイド好きの男性生主などが目立つほか,有名生主がメイドカフェでコラボ配信してるケースなどもありました。

4.踊ってみた動画におけるメイドコスプレ

アニメ・ゲーム等のキャラクター以外でニコ動でのメイドの特に顕著な例として,踊ってみた動画が挙げられます。最初期の例としては2007年4月8日の秋葉原歩行者天国での「驚異的人数でハレ晴レユカイを踊るOFF」の動画が挙げられます。このOFFで幹事を務め,動画のほぼセンターで踊ったマスクをしたロングスカートのメイド服の女性踊り手は切れのあるダンスで話題となり,その後も「マスクメイド」の通称で現役で活動しています。

驚異的人数でハレ晴レユカイを踊るoff in 秋葉原(Part2) 4/8 秋葉原中央通り
http://www.nicovideo.jp/watch/sm126471

動画にも映っているとおりメイド服でダンスを踊るパフォーマーはすでに複数人存在し,踊ってみたのアクセントとしてメイド服を選ぶ傾向は2007年当時からありました。「涼宮ハルヒの憂鬱」で朝比奈みくるがメイド服を含むコスプレをしていたこともあり,「ハレ晴レユカイ」や「最強パレパレード」などのハルヒ曲ではメイドコスプレの踊ってみたがいくつか見られます。

2007年から2008年の初期からの代表的な投稿者としては他にルチャマスクとメイド服の女性踊り手「マスクドエロス」,男性踊り手だがメイド服で踊る「メイドガイ」,ゾンビーズと一緒によく踊っていたサングラスのピンクメイド服の「ピングラメイド」などが挙げられます。またメイド服での投稿は少ないですが47(現在は紗々の名義で活動)の最強パレパレードは2007年の代表的な踊ってみた動画のひとつです。

【汚部屋☆47】メイドで最強パレパレードを踊ってしまった。。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1713799

メイド服での踊ってみたの代表的な投稿者としては「ミンカ・リー」が挙げられます。投稿者の「アルト伯爵」のメイドという設定でショートスカートのメイド服を着た踊ってみたを投稿し,当時は珍しかった顔出しの美人踊り手として大変人気がありました。

2008年12月初投稿,大きく話題となるもコメントが荒れて2日で削除。その後2009年に入って投稿を再開し,ニコ動を代表する踊り手となりました。2009年11月にはニコ動の人気踊り手3人によるユニット「DANCEROID」を結成(2010年4月に卒業),2012年に活動を終了しました。投稿数は多くはありませんが,100万再生を越える動画を2作投稿している2009年から2011年の踊ってみたを代表する踊り手です。

私のメイドが『星間飛行』を踊ってみた
http://www.nicovideo.jp/watch/sm5726731

私のメイドが『最強パレパレード』を踊ってみた
http://www.nicovideo.jp/watch/sm7030564

この時期は「ミンカ・リー」の影響もあり,「愛川こずえ」や「ヲタノ娘」など人気のある女性踊り手がメイド服を着て踊る動画を投稿する例も目立ちます。特にsamfreeのボカロ曲「Gravity=Reality」は「DANCEROID」が2009年末に発売したDVDでミンカ・リーがソロ曲として踊った曲なのにちなんでか,「ヲタノ娘」をはじめメイド服での踊ってみたが定番化した楽曲で,これまでに100人近くの踊り手がメイド服で踊っています。

DANCEROID 1st DVD「DANCEROID」 公式ダイジェスト映像
https://www.youtube.com/watch?v=zH5dEENyCvQ

*動画の30秒の箇所からミンカ・リーの歌って踊る「Gravity=Reality」が一部紹介

【ヲタノ娘・召使】Gravity=Reality踊ってみた【ほぼ姉ソロ】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm10586536

【わた】Gravity=Reality踊ってみたた。【夏】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm15019202

【いくら】Gravity=Reality踊ってみた【さつき】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm20334088

2013年に入るとメイド服を着た4人組の女性踊り手ユニット「ぷぷっぴどぅ〜」がデビュー。ピンクの髪に水色のメイド服をトレードマークに人気男性踊り手ユニット「アルスマグナ」メンバーのメイドという設定で2015年まで活動しました。「ぷぷっぴどぅ〜」の元メンバーは現在も別名義でニコ動で活動しており大変人気があります。

【ぷぷっぴ】ギガンティックO.T.N【メイド♡】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm22565957

【まなこ】愛×愛ホイッスル 踊ってみた【ぷぷっぴどぅ〜】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm24661895

また女性踊り手の「りりやん」と「まりやん」は2014年よりそれぞれお嬢様とメイドに扮した「お嬢様と一緒に踊ってみた」シリーズを投稿しており,2018年3月にひさびさに新作を発表していました。彼女らも踊っている、ギガPのボカロ曲「ぴんこすてぃっくLuv」は元の振付が「お嬢様と執事」だったもののアレンジですが,彼女らの動画以降,お嬢様とメイドの組み合わせの「ぴんこすてぃっくLuv」の踊ってみた動画がよく投稿されています。

【念願のお嬢様と一緒に】ぴんこすてぃっくLuv 【踊ってみた】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm22831223

【わたメイドと】ぴんこすてぃっくLuv 踊ってみた【みこお嬢様で】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm29617614

ほかにメイドと縁深い踊り手としては,メイド喫茶の店員だった女性踊り手「あぷりこっと*」がいます。メイド服での動画自体は数件ですが,2009年から店舗閉店の2017年まで秋葉原の「ぴなふぉあ」1号店でメイドの「あやめ」として活動しており,メイド喫茶店内での踊ってみた動画も投稿していました。

【踊ってみた】ゲットリッチの歌 コラボ&出張編【あぷりこっと*】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm26728366

ちなみにメイド服での踊ってみたが多い楽曲としては「Gravity=Reality」「ぴんこすてぃっくLuv」のほかに,「@ほぉ〜むカフェ」のメイドアイドルグループ「完全メイド宣言」の「新人メイドは胸胸きゅんきゅ~ん」がありました。こちらもメイド喫茶文化と踊ってみたの関係を示す例といえるでしょう。

【こずえ】新人メイドは胸胸きゅんきゅ~んを踊ってみた
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4786763

その他にアニメ等のメイドキャラのコスプレ踊ってみた(たとえばRe:ゼロのレムなど)も見られ,人気のある動画もありますが,ニコ動の「コスプレで踊ってみた」はどちらかというと女性人気の高いタイトルに集中しているため,件数としてはあまり多くはないようです。

近年は踊ってみた動画全体の投稿が増えているものの,(タグ付与がされにくくなっている傾向もありますが)タグで見るかぎりはメイド服での踊ってみた動画は実数としても比率としても増えてはいません。もっとも今年に入っても数十件のメイド服踊ってみたが投稿されており,メイド服は現在も有力な踊ってみた文化の一つではあるようです。

■図7.メイド関連踊ってみた動画の投稿数と比率グラフ メイド関連踊ってみた動画の投稿数と比率

* メイド関連踊ってみた動画は踊ってみたタグ動画から「メイド」「メイド服」の他,上記のメイド関連踊り手名,メイドキャラ名などのタグのいずれかがついていた動画を抽出したもの。グラフの投稿数は左軸,比率は右軸。

5.まとめ

ニコ動でのメイドの受容はメイドブームの流れとも似ていますが大きく2系統に分かれ,アニメ・ゲームのキャラクター人気と,女性投稿者の衣装人気があります。

キャラクター人気としては90年代のメイド文化から続く「十六夜咲夜」ら東方のメイドキャラが顕著であり,また「安部菜々」「南ことり」といったメイド喫茶文化とアイドル文化の接点に由来するキャラの人気が目立ちました。またMinecraftの「littleMaidMob」はこれらのキャラ人気との相性が良く,ゲームプレイ動画にキャラクターとしてのメイド(二次創作・オリジナルを問わず)を組み込む役割を果たしました。また2000年代ではアニメ・ゲームなどでメイドキャラが珍しいものではなくなっている様子が伺えます。

キャラ人気としてのメイドは,「十六夜咲夜」など定番キャラの人気は衰えず,レムやメイドラゴンなど新しいヒットもあり,今後も継続していくと見られます。

女性投稿者の衣装としてのメイド服は,特に踊ってみたにおいてニコ動初期から人気が高く,「ミンカ・リー」を代表とする各時代の踊り手の活動を背景に人気をつないで来ました。「Gravity=Reality」や「ぴんこすてぃっくLuv」といったメイド服踊ってみたの定番曲もあり,踊ってみたの一文化となっています。近年は増えていないものの,今も投稿は続いており,何かのきっかけで再び拡大することもあるかと思われます。
同様のメイド服人気はニコ生にも見られたと思われますが,こちらは今後の課題とします。特にニコ生ではメイド喫茶などとコラボする例も多かったようです。踊り手の「あぷりこっと*」の例を挙げましたが,メイド喫茶とニコ動・ニコ生との関連はさまざまなものがありそうです。

最近ではアニメ的なキャラクター文化とアイドル的なパフォーマー文化の合流したバーチャルYouTuber(またはVTuber)の人気も高く,ニコ動でも大きな話題となっています。その中ではメイドキャラを自称するVTuberも何人かあり,また最近では「カスタムメイド3D」の後継作「カスタムオーダーメイド3D2」でVTuber的な活動ができるアップデートが発表となり大きな話題となりました。これらがメイド人気の拡大につながるかは不明ですが,流行は何がきっかけで盛り上がるか分からないところです。

今後の発展を期待していきたいと思います。

執筆:myrmecoleon

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