[参考資料]19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう


文学との関連で分かりやすく楽しめる

かなりの本で参考図書に上げられた一冊です。10年ぐらい前にたまたま近所の本屋で目に付いたので買い、その後で価値の高さに驚きました。分厚い構成は辞書さながらで、この本でいていの概要は把握できます。

当時の貴族制度、称号、上流階級の社交の様子、政治制度、宗教制度、財産、法律など多岐に渡って解説しており、入門書としては格好のものです。残念ながら資料(図表・絵)そのものは非常に少なく、文章主体です。本のレイアウトもあまり読みやすいものではなく、情報の配置がやや平面的です。欲しい部分を見つけるのに苦労するのではないでしょうか? 通読するのではなく、関心のあるキーワードを拾い上げ、百科事典的に使用するのがいいと思います。

また、これは好みによりますが、元々がディケンズやオースティンなどイギリスを舞台にした小説に登場する社会背景を理解し、原作の楽しみを増すのを支援する本でもあり、文学作品からの引用が多く、必ずしも史実的な要素であふれているわけではありません。

一定時間が経過した後に読み直すと、過去に気づかなかった視点を提供してくれることもあり、自分の成長と共に、変化していく一冊といえるかもしれません。全部を理解しようとするのではなく、都度都度、読めば良いと思います。

文学を楽しむ「入り口」にもできる

しかし、この書籍を通じて、文学を楽しむ「逆輸入」のような楽しみ方もできます。

10年ぐらい前に買ったこの本に頻出するトーマス・ハーディに関心を持ち、『テス』や短編集を読むこともできましたし、ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』『いつか晴れた日に(分別と多感)』といったメジャー作品以外にも関心が向きました。

今ではハーディは最も好きなイギリス作家の一人です。こうした「参考文献・引用文献の原典を読む」行いは、非常に幅を広げてくれますので、オススメします。

辞典としての価値

この本は文学との相関関係が非常に強くなっていて、どこからでも読めますが、英語で文学を読む人向けの実用的な副読本としての機能も持っています。本書の半分ぐらいは「英語辞典」になっているのです。

AMAZONの評価では半分以上が読み物ではなく、「辞典」となっている点をマイナス評価していましたが、これは評価が分かれるところです。久我もそれほど詳しくない時期には、正直な所、前半しか読んでいませんでした。

しかし、この実用性の高さは類を見ません。文学の原書を読むことが多い人や、これから興味を持って何かしら同時代の歴史を勉強する場合に、このレベルの用語集は極めて珍しく、使いやすいものになっているのです。通常の辞書よりも同時代に限定した利用方法に特化し、解説も分かりやすく、応用が利きます。

まずこちらの用語で検索し、その上で分からなければ、辞書を引く、というぐらいの位置づけとなる一冊です。大変残念なことにこの本は現在絶版です。